あの天体は今:110億年前の銀河たちから始めるシミュレーション

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110億年前の宇宙で観測されている巨大原始銀河団の一生を再現し、現在ではどのような姿になっているかを調べるシミュレーションが実施された。

【2022年6月9日 カブリIPMU

宇宙の大規模構造がどのように発達してきたかを探る手段として、計算機によるシミュレーションが盛んに行われている。こうした宇宙論的シミュレーションはランダムな初期状態から計算を始めることが多い。最終的には観測データを統計的に説明できる結果が得られれば良いのであって、現実の姿を再現することにこだわる必要はなかったからだ。

これに対して、実際に観測されている宇宙の構造を再現するのが「制約条件付きシミュレーション」だ。とりわけ近傍宇宙、すなわち現在の宇宙の状態を制約条件としてシミュレーションに組み込むことが多い。一方、過去の宇宙の姿を制約条件として、現在どのように変化しているかを探るシミュレーションも可能だ。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)のMetin Ataさんたちの研究チームは、110億光年離れた、つまり110億年前の宇宙で観測された銀河の集合体を再現する制約条件付きシミュレーションを実施した。観測対象として選ばれた領域が、ろくぶんぎ座の方向にある遠方宇宙まで見通せる「COSMOSフィールド」だったことから、この研究は「COnstrained Simulation of The COSMOS Field(COSMOSフィールドでの制約条件付きシミュレーション)」略してCOSTCO(コストコ)と名付けられている。COSTCOでは宇宙最初期から開始し、110億年前の状態を経て現在に至るまでの進化を再現する。

110億年前の時代と現在の時代における銀河の分布に対応する物質分布のシミュレーション結果
シミュレーション結果。(上)宇宙がまだ27億6000万歳、現在の年齢の20%の時代に当たる、110億年前の物質の分布/(下)110億光年後、つまり現在に対応する同じ領域の物質の分布(提供:Ata et al.)

「このシミュレーションの開発は、タイムマシンを作るのに似ています。遠い彼方の銀河が発した光はようやく地球に今到着するので、望遠鏡で見えている姿は銀河の過去のスナップショットなのです。つまり、祖父の昔の若いころの白黒写真を見つけてきて、その若者の生涯を予想し、記録したビデオを作るようなものです」(IPMU Khee-Gan Leeさん)。

COSMOSフィールドには、天の川銀河の約5000倍もの質量を持つ超原始銀河団「ハイペリオン」が存在する(参照:「初期宇宙の巨大な原始超銀河団「ハイペリオン」」)。ハイペリオンは時間経過につれて、現代の宇宙に見られるような超銀河団へ進化すると予想されていたが、シミュレーションの結果、約3億光年にも及ぶ巨大なフィラメント構造になることがわかった。銀河団へと進化する可能性が高い既知の原始銀河団は他にも確認されており、新たな原始銀河団も5つ見つかっている。

現在のところCOSMOSフィールド以外に制約条件付きシミュレーションに使える観測領域はない。しかし、今後数年のうちにすばる望遠鏡などに搭載された広視野のファイバー分光器によって、今回使われた領域の10倍以上も広範囲の観測データが得られる予定だ。そのデータを制約条件としてシミュレーションを行うことで、銀河団の形成と進化がより効率的に解明できると期待される。

シミュレーションの動画「Predicted future fate of COSMOS galaxy protoclusters over 11 Gyr with constrained simulations」(提供:Kavli IPMU チャンネル)

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