新星爆発で生まれる有機物の塵を実験で合成

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新星爆発によって窒素を含む有機物が生成される過程を再現する実験が行われ、生成物の特性が実際の新星周辺で観測される赤外線スペクトルと一致することが確かめられた。

【2021年9月2日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

星の周辺環境や恒星間物質からは様々な有機化合物に由来する赤外線が検出されているが、その中には物質を同定できない波長(未同定赤外バンド)も残されている。有機化合物は私たちの起源を知る上で鍵となる物質であり、それらが地球上で生成されたのか、それとも宇宙から飛来したのかは重要な問いだ。

天の川銀河の星間塵の赤外線スペクトルに見られる未同定赤外バンド
赤外線天文衛星「あかり」が取得した天の川銀河の星間塵の赤外線スペクトル。主に6.2、7.7、8.6、11.2μmに見られる特徴的なバンド構造は『未同定赤外バンド』と呼ばれる(提供:東京大学リリース、以下同)

これら未同定赤外バンドを発する星間有機物の起源は、最期を迎えた恒星だという考えが有力だ。この説によれば、恒星内部で合成された元素が、星の終焉期に恒星風として星間空間に撒き散らされる過程で分子を形成する。このような過程を実験で再現し、生成された物質のスペクトルと観測とを比較すれば、星間有機物が何であるかを推測することができる。

東京大学の遠藤いずみさんたちの研究チームは、新星爆発による有機物の合成に注目して再現を試みた。新星爆発は寿命を終えた星の燃えかすである白色矮星の表面に、物質が降り積もることで起こる現象であり、まさに終焉期の星から有機物を含む物質が宇宙空間に撒き散らされるというものだ。

新星爆発が有機物の塵を生み出す様子
新星爆発が有機物の塵を生み出す様子のイラスト。分子模型中の白は水素、黒は炭素、青は窒素を表す

遠藤さんたちは窒素ガスと固体の炭化水素をマイクロ波で加熱してプラズマガスにした上で急冷するという手法により、窒素を豊富に含む新星からの放出ガスから有機物の塵が生まれる過程を定性的に再現した。その結果得られた「急冷窒素含有炭素質物質 (Quenched Nitrogen-included Carbonaceous Composite; QNCC)」は、新星周囲で観測される未同定赤外バンドの特徴を極めてよく再現することがわかった。

QNCCと新星のスペクトル比較
QNCCの赤外吸光度スペクトルと新星(はくちょう座V2361)に観測される未同定赤外バンドの比較。新星の未同定赤外バンドに特徴的な8μmバンドがよく再現されている

QNCCには炭素に対して3-5%(個数比)の窒素が存在し、窒素を含む有機化合物の「アミン」が存在する。研究チームでは、このアミン類が波長8μm付近の未同定赤外バンドを再現する鍵であることを示した。この波長帯を再現する物質としてはこれまで、石炭や重油など地球由来の天然物質が知られていたものの、こうした物質は恒星における物質合成とは関連付けられていなかったので、QNCCの寄与が再現されたことは重要な成果となる。

生命を構成する有機物においても窒素は大きな役割を果たしている。研究チームは今後、終焉期の恒星で誕生した有機物と太陽系誕生時の有機物の関連を調べ、太陽系に存在する有機物の起源に迫りたいとしている。

〈参照〉