リュウグウは一様にスカスカでデコボコ
【2020年7月3日 JAXAはやぶさ2プロジェクト】
「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに到着して約1か月が経った2018年8月1日、「はやぶさ2」は高度5kmまで降下して、リュウグウの表面を中間赤外カメラで自転1周分、つまりリュウグウの丸1日(約7.6時間)にわたって連続観測した。
2018年8月1日に「はやぶさ2」の中間赤外カメラ(TIR)で得られたリュウグウ表面の温度分布(提供:Shimaki et al., 2020 を改変)
JAXA宇宙科学研究所の嶌生有理さんを中心とする「はやぶさ2」プロジェクト・サイエンスチームは、この観測で得られたリュウグウの表面温度のデータから、リュウグウが熱を受けたときにどのくらい温まりにくいかという性質(熱慣性)について詳しく調べた。
小惑星の表面がすぐに温まる(=熱慣性が小さい)性質を持っていれば、表面温度は太陽の直下(正午にあたる経度)で最も高くなり、朝や夕方にあたる経度では低くなる。一方、表面の物質が温まりにくい(=熱慣性が大きい)と、温度が上がるまでに時間がかかるため、表面温度のピークは正午をやや過ぎた時刻の経度にずれる。
嶌生さんたちが「はやぶさ2」の観測データを様々なモデルと比較したところ、リュウグウの表面温度をうまく再現するためには、表面の温まりにくさだけでなく、表面の凹地に熱が閉じ込められる効果や、正午側の斜面と夜側の斜面で探査機から見える温度が違う効果など、小惑星表面の凹凸に関係する効果をモデルに加える必要があることがわかった。
小惑星の表面温度に表れる凹凸効果。日向に面した斜面の方が日陰側の斜面よりも温度が高い(提供:JAXA、千葉工大)
そこで、凹凸効果を考慮して観測に最もよく合うモデルを求めたところ、リュウグウ表面の熱慣性は、中身が詰まった玄武岩などの1/10程度で、リュウグウと性質が似ているとされている多孔質の炭素質隕石の熱慣性と比べても2~3割くらいしかないことが明らかになった。この性質はリュウグウの表面全体で一様にみられるもので、リュウグウの岩塊は全体的にきわめて「スカスカ」だということになる。
モデル計算に基づいて得られたリュウグウの熱慣性マップ。中身の詰まった玄武岩の熱慣性は2000tiu以上、炭素質隕石の熱慣性は600~1000tiuで、リュウグウの表面はこれらよりもずっと熱慣性が小さく、温まりやすい。○印は主なクレーターの位置(提供:Shimaki et al., 2020 を改変)
さらに、リュウグウ表面の凹凸度は、平均的な斜度で表すと約47度にもなり、非常に激しい凹凸を持っていることが熱慣性からも裏付けられた。この凹凸の度合いは、ハワイのキラウエア火山や伊豆大島の三原山などで見られる「アア溶岩(鉱滓状溶岩)」に形が近いという(ただし、リュウグウ表面の凹凸はアア溶岩の凹凸よりも、長さのスケールでは10倍ほど大きい)。
「微小重力かつ風化作用がないリュウグウでは、地球上よりも大きなスケールで凹凸度が維持されていることを示しています。また、1/10スケールの「はやぶさ2」をアア溶岩にタッチダウンさせることを考えると、タッチダウンの難しさを実感できるかと思います」(嶌生さん)。
ハワイのアア溶岩。リュウグウ表面の凹凸度はこの溶岩を約10倍に拡大したものに近い(提供:野口里奈氏)
リュウグウの熱慣性や大きな凹凸度を持っているという性質は、リュウグウの公転軌道にも大きな影響を与えるだろうと研究チームは考えている。今回のモデル計算で、リュウグウでは太陽の直下(正午)よりも経度で30度ほどずれた場所に温度のピークがあることがわかったが、小惑星がこうした熱慣性を持っていると、表面温度の高い場所から出る熱放射の反作用で小惑星に力が働き、軌道の形が変わることが知られている(ヤルコフスキー効果と呼ばれる)。研究チームでは、「はやぶさ2」のミッションでリュウグウの軌道を高い精度で決定したデータと今回の成果とを組み合わせて、リュウグウの熱的な性質が軌道に与える影響についてもモデル計算の結果を実証したいと考えている。
〈参照〉
- JAXAはやぶさ2プロジェクト:リュウグウ表面は一様にスカスカでデコボコ!
- JAXA:小惑星探査機「はやぶさ2」の記者説明会(20/6/11) YouTube動画
- Icarus:Thermophysical properties of the surface of asteroid 162173 Ryugu: Infrared observations and thermal inertia mapping 論文
〈関連リンク〉
- 「はやぶさ2」:
- 星ナビ.com 「はやぶさ2」ミッションレポート
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