「はやぶさ2♯」探査目標の小惑星による恒星食、1地点で減光を観測
【2023年4月13日 星ナビ編集部】
小惑星が背景の恒星を隠す現象を地上から観測することで、その小惑星の軌道精度を向上させたり、形状や大きさなどを推定したりすることができます。探査機「はやぶさ2」の拡張ミッション「はやぶさ2♯」の対象天体である小惑星2001 CC21についても、この現象を観測するキャンペーンが2023年1~3月に実施され、全国で多数の挑戦がありました。
小惑星2001 CC21は推定直径が600~700mで、これは過去に恒星食観測の対象になったことがない極めて小さな天体です。キャンペーンの対象は観測条件の良い4現象(※)でしたが、熱心な観測者たちはより暗い恒星まで観測対象を広げ、最終的には14現象の観測にプロ・アマ共同の観測者たちが挑みました。この困難なチャレンジに対して、観測の総数は、延べ146地点・203名もの規模となり、小惑星が小さいことだけでなく参加規模も前代未聞の挑戦となりました。
(※)キャンペーン開始時は5現象を予定。その後、恒星位置の信頼性の悪い現象を除き4現象を対象とした。
3月5日に起こった、きりん座にある恒星TYC4082-0763-1(10.1等)の食も観測対象の一つです。この際に、20地点中1地点で、食による減光が観測されました。成功したのは滋賀県から東広島市まで遠征して観測した井田三良さん(JOIN)です。
3月5日の観測布陣マップ。赤い●の1地点で食による減光が観測された。予報の食帯は中心の青線(幅)600m。緑線は誤差1σ(68.3%確率)。赤色の○では通過(食なし)を観測。画像クリックで表示拡大
3月5日観測の整約図。円は小惑星の推定直径600m。観測から求められた弦の長さは449m±12m(整約計算:早水勉)。画像クリックで表示拡大
この成果により、その後の観測に大きな期待が膨らみましたが、残念ながら再び食が観測されることはありませんでした。2001 CC21は今後太陽の方向に近くなり、当分の間恒星食の観測チャンスはありません。
とはいえ、このような小さな小惑星で、1地点でも食の観測に成功したことは極めて大きな成果です。小惑星の大きさや形状を求めるという目標は達成できませんでしたが、小惑星上で449m±12mと推定直径よりも短い弦長が求められました。同時に、小惑星の軌道が大幅に改良されました。探査機がフライバイする2026年7月の時点での2001 CC21の位置誤差は47km(1σ)であることがわかり、これは今回の観測前の誤差82kmを半減(Davide Farnocchia氏(JPL/Caltech))させる成果です。
この小惑星観測キャンペーンの顛末は、星ナビ2023年7月号で詳しく紹介します。
〈関連リンク〉
- JAXA はやぶさ2プロジェクト
- HAL星研
- 日本公開天文台協会
- 「星ナビ」2023年2月号 Observer's NAVI「はやぶさ2」拡張ミッション応援!」 吉川真さん(JAXA)と早水勉さんによる解説記事
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:小惑星2001 CC21
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