「日焼け」からわかったリュウグウの歴史

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「はやぶさ2」の観測から、かつて小惑星リュウグウが今よりも太陽に近い軌道にあり、表面が赤くなる変質を受けていたことが明らかになった。

【2020年5月13日 JAXA

探査機「はやぶさ2」は2019年2月22日に小惑星「リュウグウ」への第1回タッチダウンを行い、表面の物質を採取することに成功したとみられる。4月5日にはリュウグウの表面に人工クレーターを生成する実験にも成功し、7月11日にはこの人工クレーターのそばで第2回目のタッチダウンを行って、ここでもサンプルを採取した。現在は地球に向かって飛行中で、今年の年末に帰還する予定だ。

第1回タッチダウンでは、「はやぶさ2」からサンプル採取のための弾丸が発射され、その直後には探査機を上昇させるためにスラスター噴射が行われた。その際、リュウグウの表面にあった岩石とともに、黒っぽい微粒子が大量に舞い上がった。この微粒子はタッチダウン地点を中心として直径約10mの範囲に降り積もったことがわかっている。

第1回タッチダウン
「はやぶさ2」第1回タッチダウン時に広角の光学航法カメラ(ONC-W1)で撮影されたリュウグウ。探査機が上昇するとともに黒っぽい微粒子が大量に舞い上がり、タッチダウン地点の周りに積もった。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)

東京大学大学院の諸田智克さんを中心とする研究チームは、この黒っぽい微粒子に着目し、タッチダウン地点周辺の「色(=反射光のスペクトル)」がタッチダウンの前後でどのように変化したかを「はやぶさ2」の光学航法カメラの画像から分析した。

その結果、タッチダウン地点の周辺に積もった黒っぽい物質は、反射スペクトルでは「赤黒い」色であることが明らかになった。この赤黒い色の反射スペクトルはリュウグウ全体で広く見られる特徴だが、特に中緯度地域の表面が赤黒く、赤道リッジ(リュウジン尾根)や両極に近い地域は青白いことが知られている。

また、リュウグウの表面にあるクレーターと色の関係を調べたところ、古いクレーターの内部は周囲と同じくらい赤っぽく、新しいクレーターの内部は周囲よりも青っぽいものが多いことがわかった。

反射スペクトル
(A)リュウグウ全球の反射スペクトル。赤色の領域はスペクトルが赤っぽく、青色の領域は青っぽいことを表す。「TD」が第1回タッチダウン地点。(B)Aの破線部「B, C」を「はやぶさ2」の望遠光学航法カメラ(ONC-T)で撮影した画像。矢印は周囲より青っぽいクレーターの位置を表す。(C)Bと同じ範囲の反射スペクトル。点線は主なクレーターで、比較的古いクレーター(R1~R3)は赤っぽく、それより新しいクレーター(B1, B2)は青っぽい。画像クリックで表示拡大(提供:Morota et al., 2020から一部改変)

これらの結果から、

  • リュウグウでは表面が赤っぽい色に変化するようなイベントが過去に起こった
  • 赤いクレーターは上記のイベントより前、青いクレーターは上記のイベントより後に作られた

と研究チームでは考えている。

リュウグウの表面が赤くなった原因としては、緯度が高い地域で赤い色がほとんど見られないことから、太陽の熱や太陽風による宇宙風化を受けて変成した可能性が高いという。赤道リッジが青白い理由は、赤化イベントが起こった後で、標高の高い赤道リッジから標高の低い中緯度地域へ表面の物質が流れ出したことで、内部の青白い物質が赤道リッジの表面に現れたと考えればつじつまが合う。

また、リュウグウのクレーターは赤いものと青いものにはっきり分かれていて、中間的なタイプがほとんど見られないため、表面の赤化はかなり短期間のイベントだったと考えるのが自然だ。現在のリュウグウは「地球接近小惑星(NEA)」に分類されていて、遠日点が火星軌道、近日点が地球軌道付近にあるが、かつてのリュウグウは短い間だけ、近日点が太陽に近い軌道を公転していた時代があり、その時期に表面の赤化が進んだのではないかと研究チームでは推定している。

これらの結果から、研究チームはリュウグウの進化の歴史を以下のように考えている。

  1. 火星と木星の間の小惑星帯で、リュウグウの母天体が大規模な天体衝突で破壊されて破片になった
  2. 破片が再び集積してリュウグウが形作られた
  3. そろばん玉のような形ができ、天体衝突で比較的大きな古いクレーターが作られた
  4. リュウグウの軌道が小惑星帯から現在のような地球接近小惑星の軌道にシフトした(この時期、一時的に近日点が太陽に近い軌道になり、表面が赤くなった)
  5. 赤道リッジから中緯度へ表面の物質が流れるとともに、天体衝突で青いクレーターが作られた

リュウグウの進化史
今回の研究成果から推定されるリュウグウの進化の歴史。画像クリックで表示拡大(提供:Morota et al., 2020から一部改変)

リュウグウの表面に見られるクレーターの直径と個数の統計から、3と4の間はおよそ900万年、4と5の間は約30万~800万年経っていると推定されている。

「はやぶさ2」の観測では、第1回タッチダウンの地点には赤黒い物質だけでなく、変成を受ける前の青白い物質も分布していることが判明している。このことから、このタッチダウンでは両方の物質とも採取できていると研究チームでは期待している。このサンプルを「はやぶさ2」が無事に地球へ送り届けてくれれば、リュウグウのような炭素質の天体がどのようにして地球軌道近くまでやってくるのか、またどのようにして太陽による変成や風化を受けるのかを解明できるかもしれない。

(文:中野太郎)

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