鉄の雨が降る惑星

このエントリーをはてなブックマークに追加
地球から640光年離れた系外惑星で、摂氏2400度に達する昼側の大気に蒸発した鉄が含まれることを示す観測データが得られた。1500度と比較的「涼しい」夜には鉄がなくなるので、昼から夜に切り替わる部分では鉄の蒸気が雨となって降り注いでいるようだ。

【2020年3月17日 ヨーロッパ南天天文台

鉄の雨が降っているとされるのは、うお座の方向約640光年の距離に位置する系外惑星「WASP-76 b」である。質量は木星よりもやや小さいガス惑星で、中心星の周りを2日弱で公転している。中心星から惑星までの距離は太陽から地球までの30分の1しかない。さらに、月が地球に同じ面を向けているように、この惑星は潮汐の力によって中心星を向く「昼の側」と反対の「夜の側」が固定されているようだ。そのため、WASP-76 b全体としては高温でありつつ、昼と夜とで極端な温度差が生じる環境にある。

昼の側は摂氏2400度に達し、鉄のような金属も気体となっていると考えられる。そこで、スイス・ジュネーブ大学のDavid Ehrenreichさんたちの研究チームは、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTと、同望遠鏡に2018年に搭載されたばかりの分光器「ESPRESSO(Echelle SPectrograph for Rocky Exoplanets and Stable Spectroscopic Observations)」を用いて、WASP-76 bの大気組成を調べた。

この観測のポイントは、惑星の昼と夜の側に加え、昼から夜に切り替わる「夕方」の部分と夜から昼に切り替わる「朝」の部分における大気組成をそれぞれ調べたことにある。中心星に同じ面を向けつつも惑星自体は自転しており、昼と夜の温度差によって表面では強い風が吹いているので、夕方と朝を区別することができる。このうち、夕方の側では昼と同じように大気中に多くの鉄が蒸発していることを示すデータが得られた一方、夜から朝にかけて鉄の蒸気は観測されなくなった。

夜側の温度は摂氏約1500度であり、鉄は液体状になっていると予想される。ということは、昼の側から流れ込んできた鉄の蒸気は夕方の部分で凝縮して,雨のように降っている可能性があるのだ。

WASP-76 bの夜側のイラスト
系外惑星「WASP-76 b」の夜側のイラスト。昼側から運ばれた鉄の蒸気が低温の夜側で冷えて雨粒となって降り注ぐ様子が描かれている(提供:ESO/M. Kornmesser)

ESPRESSOは本来、地球のような岩石型系外惑星を見つけることを目指して設計された観測装置だが、今回の研究で系外巨大ガス惑星における化学的組成の変化を初めて検出することに成功した。この観測にも携わったESPRESSOの開発チームは、同装置が期待以上に様々な用途に役立つのではないかと期待している。

中心星「WASP-76」を巡るWASP-76 bの軌道(緑)を再現した動画(提供:ESO)