ハビタブル惑星の大気に“生命の証拠”分子の兆候

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ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測で、“生命の証拠”としても知られる硫化物分子のスペクトルらしきものがハビタブルな系外惑星の大気から検出された。

【2025年4月28日 ケンブリッジ大学 (1)(2)

系外惑星の研究では、惑星の大気などから生命が存在する証拠(バイオシグネチャー)を検出しようという取り組みが盛んに行われている。

英・ケンブリッジ大学天文学研究所のNikku Madhusudhanさんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を使って、系外惑星「K2-18 b」の大気の分光観測を実施した。この系外惑星はしし座の方向約124光年の距離にあり、赤色矮星K2-18の周囲を約33日周期で公転している。質量は地球の2.6倍、半径は地球の8.6倍で、「サブネプチューン(ミニ海王星)」と呼ばれるタイプの惑星である。また、K2-18 bは液体の水が存在できる「ハビタブルゾーン」内にあることもわかっている。

K2-18 b
系外惑星「K2-18 b」の想像図(提供:A. Smith/N. Madhusudhan、以下同)

Madhusudhanさんたちは過去に、JWSTのNIRISS(近赤外線撮像スリットレス分光器)とNIRSpec(近赤外線分光器)を使った分光観測で、K2-18 bの大気からメタンと二酸化炭素を検出している。ハビタブル惑星の大気から炭素を含む分子が検出されたのはこれが初めてだった。この結果から、K2-18 bは広大な海と水素分子に富んだ大気を持つ「ハイシャン(Hycean)惑星(※)」の一つだとMadhusudhanさんたちは考えている。

※ Hycean は Hydrogen(水素)とOcean(海洋)を合わせた造語。

さらにこの観測では、「ジメチルスルフィド(硫化ジメチル、DMS)」という分子のスペクトルかもしれない信号もごくわずかに検出されていた。「前回見えた信号がDMSによるものなのか、はっきりとはわかりませんでしたが、わずかな兆候が得られただけでも、JWSTの他の観測装置で観測をしようと私たちを興奮させるには十分なものでした」(Madhusudhanさん)。

今回、研究チームは新たにJWSTの中間赤外線カメラ「MIRI」の分光モード「MIRI LRS」を使い、中間赤外線領域で改めてK2-18 bの大気の分光を行った。その結果、ジメチルスルフィドに加えて「ジメチルジスルフィド(DMDS)」のスペクトルの兆候も検出された。ただし、検出の有意性は3.4σ(=偶然である確率が0.3%)で、科学的に確実な「検出」とされる5σ(=偶然である確率が0.00006%)には達していない。

MIRI LRSによるスペクトル
JWSTのMIRI LRSで観測された、K2-18 bの大気の透過スペクトル。縦軸が透過光の吸収率で、高いほど物質の存在量が多い。黄色の点が観測データ、水色の線がモデル。画像クリックで表示拡大

DMSとDMDSは同じグループの化学物質で、キャベツ類が腐ったときの臭いの原因物質だ。海洋プランクトンが作り出す物質としても知られていて、海の「磯臭さ」の原因でもある。どちらも地球外でバイオシグネチャーとして検出されうると予測されている。ただし、この2つの分子はスペクトルの波長域が重なっており、両者のどちらが検出されたのか(両方とも含まれるのか)を見分けるにはさらなる観測が必要となる。

惑星の大気にDMSやDMDSが多く存在するという状況は、地球の大気とは大きく異なっている。地球大気ではこれらの分子の存在量は体積比で10億分の1(1 ppbv)未満だ。K2-18 bの大気ではこれより数千倍多く、10 ppmを超えると推定されている。

「これまでの理論研究で、ハイシャン惑星ではDMSやDMDSのような硫黄を含む気体分子が多く存在することが予測されており、今回これらの分子を予測通りに検出しました。この惑星についてわかっていることを総合すると、K2-18 bは生命に満ちた海を持つハイシャン惑星であるというのが、データに最もよく合うシナリオです」(Madhusudhanさん)。

研究チームでは、「系外惑星で生命を発見した」と言うためにはさらにデータを集めることが重要だと考えている。K2-18 bで未知の非生命的な化学反応が起こっていて、これらの分子を作り出している可能性もあるからだ。「今回の結果については深く懐疑的になることが大事です。何度も何度もテストすることでしか、結果に自信を持てるようにはならないからです。科学とはそういうものです」(Madhusudhanさん)。

Madhusudhanさんたちはまだ決定的な発見をしたと主張しているわけではないが、JWSTや将来計画されている望遠鏡のような強力な道具によって、「私たちは宇宙の中で孤独なのか?」という、最も本質的な問いの答を得るための新たな一歩を踏み出せるかもしれない。

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