ベスタの分厚い地殻を形成した巨大衝突

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小惑星「ベスタ」を起源とする隕石の年代測定から、ベスタが約45億年前に巨大衝突を経験したことが示され、ベスタの南半球の異常に分厚い地殻がどのように形成されたのかという謎が解明された。

【2019年6月20日 東京工業大学

地球などの惑星の元となった原始惑星が、太陽系の歴史の中でいつ誕生しどのように成長したかは、太陽系形成シナリオを考える上でとても重要だ。ほとんどの原始惑星は衝突などによって失われたが、火星軌道と木星軌道の間に広がる小惑星帯の中で2番目に大きい直径525kmの小惑星「ベスタ」は、原始惑星の数少ない生き残りとして存在している。

ベスタ
小惑星「ベスタ」(提供:NASA/JPL-Caltech/UCAL/MPS/DLR/IDA)

ベスタに起源を持つ隕石グループ「メソシデライト」は、その性質上、層構造を持つ天体が大規模に破壊された時に形成されたと考えられている。この隕石がベスタで形成されたとすると、ベスタは形成史のなかで大きな崩壊を経験していたはずだ。一方で、ベスタに起源を持つ別の隕石グループ「HED隕石」の研究によると、ベスタは現在も形成当時と同じ層構造を保っていると考えられており、メソシデライト形成に必要な大規模崩壊が起こったという推測とは矛盾する結果となる。

東京工業大学の羽場麻希子さんたちの研究チームは、従来の研究で考慮されていなかったベスタにおける巨大衝突の可能性について検討するため、メソシデライトの形成年代を調べた。

5つのメソシデライトに含まれていたジルコンに対して、ウラン-鉛年代測定法(ID-TIMS法)を用いて超高精度の年代測定を実施したところ、メソシデライトの母天体の地殻は45.59±0.02億年前に形成され、45.254±0.009億年前に大規模な破壊を経験したことが判明した。

この結果は、HED隕石からわかっているベスタの進化史と一致している。HED隕石の測定から、ベスタの地殻は45.5億年前に形成され、45.2~45.3億年前に何らかの原因で外部から再加熱されたことが知られている。また、これまでに得られた全科学データがHED隕石と一致しており、メソシデライトの母天体はHED隕石と同じベスタであると確認された。

メソシデライトとHED隕石の年代に関するヒストグラム
メソシデライトとHED隕石の年代に関するヒストグラム。(上)メソシデライトに含まれるジルコンのウラン-鉛年代に基づく母天体の進化史、(下)HED隕石のウラン-鉛年代に基づくベスタの進化史。双方の隕石グループで、地殻形成と再加熱(巨大衝突)の年代が一致する(提供:プレスリリースより、以下同)

羽場さんたちはさらに、ベスタでの巨大衝突モデルをいくつか検討し、当て逃げ型(ヒットエンドラン)の衝突モデルが、メソシデライトの形成やベスタ南半球の分厚い地殻の謎を説明できることを示した。

このモデルでは、まずベスタが40km程度の地殻を持って誕生した後、45.25億年前に別の小惑星と衝突を起こして北半球の大部分が崩壊する。この時、地殻やマントル物質、溶融状態の金属コアが宇宙空間に飛び出したものの、大部分はベスタの重力から脱することができず、衝突の影響が比較的小さかった南半球に分厚く降り積もる。その際にメソシデライトが形成されたと考えられ、最終的に南半球のマントルの上に、地殻と衝突破砕物からなる分厚い層ができたとみられる。

ベスタにおける巨大衝突モデル
(上)ベスタにおける巨大衝突モデルのイラスト、(下)45.25億年前のベスタにおける巨大衝突のイメージ

NASAの探査機「ドーン」の探査データに基づいたシミュレーション研究から、ベスタの地殻の厚さは80km以上と推定されていた。その異常に分厚い地殻の正体は、この地殻と衝突破砕物の層であり、45.25億年前の巨大衝突によってベスタの層構造が大きく変化した証拠ということになる。

今回の研究では世界で初めて、天体の巨大衝突が起こった年代が超高精度で決定され、ベスタの進化史がより鮮明に描き出された。同様の年代測定法を他の隕石や探査機による回収試料に応用することで、太陽系に存在する小惑星や惑星の多様性についての理解が進むと期待される。