太陽系と異なるプロセスで形成中の惑星

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200万歳という若さの星に、まさに形成中の惑星が見つかった。「ボトムアップ」で作られた太陽系の惑星と違い、「トップダウン」で生まれたと考えられている。

【2022年4月8日 すばる望遠鏡HubbleSite

太陽系の惑星も太陽系外の惑星も、生まれたての恒星を取り巻くガスと塵からなる原始惑星系円盤で生まれる。円盤の物質が集まって惑星へと成長する過程には複数のシナリオが考えられ、それらを検証するためには、今まさに円盤の中で生まれつつある惑星をとらえる必要がある。そのような天体は極めて稀少だ。

国立天文台ハワイ観測所のThayne Currieさんたちの国際研究チームがすばる望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡でぎょしゃ座AB星の周りに見つけた天体ぎょしゃ座AB bは、成長の真っ直中にある原始惑星だと考えられている。これまでにないほど「未熟」な段階にあり、惑星形成理論にも大きな影響を与えそうだ。

ぎょしゃ座AB星
すばる望遠鏡の超補償光学系「SCExAO」と撮像分光器「CHARIS」を用いて撮影された、ぎょしゃ座AB星の赤外線画像。これまで知られていた渦巻腕構造を伴った原始惑星系円盤と、今回発見された原始惑星がはっきりと見えている。★印の位置にある明るい恒星(主星)は、観測装置によって隠されている(提供:T. Currie/Subaru Telescope)

主星のぎょしゃ座AB星は約200万歳と非常に若く、これまでにたびたび観測の対象となってきた。「すばる望遠鏡とぎょしゃ座AB星との付き合いは長きにわたります。すばる望遠鏡は2004年にこの星を取り囲む渦巻状円盤を発見し、2011年にはギャップやリングといった円盤の構造も発見しました。ただ、いずれも惑星自体は検出できませんでした。今回、長らくの夢であった、円盤に埋もれている原始惑星の発見に遂に成功したのです」(東京大学 田村元秀さん)。

ぎょしゃ座AB星
(左)ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)が2021年に撮影した原始惑星「ぎょしゃ座AB b」。(右上)HSTの近赤外線カメラ・多天体分光器(NICMOS)が2007年に撮影した拡大像。コロナグラフで覆われている主星の真南に原始惑星が写っている。(右下)STISが2021年に撮影した拡大像。14年間で原始惑星が反時計回りに移動していることがわかる。水色の破線は海王星の軌道サイズ(すばる望遠鏡の画像における黄色の破線と同じ)(提供:SCIENCE: NASA, ESA, Thayne Currie (Subaru Telescope, Eureka Scientific Inc.); IMAGE PROCESSING: Thayne Currie (Subaru Telescope, Eureka Scientific Inc.), Alyssa Pagan (STScI))

ぎょしゃ座AB bは主星から約140億km(太陽・冥王星間の2倍以上)も離れており、質量は木星の約9倍と見積もられている。これらの特徴は、この惑星が太陽系のガス惑星とは異なるプロセスで生まれた事を示唆するものだ。

太陽系では、比較的太陽に近いところで塵が集まって微惑星となり、その微惑星が十分に成長するとガスを集めるようになり、巨大惑星になったと考えられる。一部の惑星は重力相互作用によって、誕生した場所より外側へ移動したという見方も有力だ。だが、このようなボトムアップ式の成長は、ぎょしゃ座AB bでは考えにくい。主星から遠すぎるため微惑星はなかなか成長できないし、年齢が若すぎるため外側へ移動する時間もなかったと思われる。

Currieさんたちは、ぎょしゃ座AB bの形成はトップダウン式だったと考えている。つまり、原始惑星系円盤の一部が自己重力で不安定になり、一挙に集まって惑星へと成長したというのだ。これまでに見つかってきた系外惑星の中には、冥王星よりも遠い軌道を回り木星の数倍の質量を持つものも多い。今回、形成途上の惑星が見つかったことにより、他の系外惑星も円盤の重力不安定で誕生したことが裏付けられるかもしれない。

ぎょしゃ座AB bの想像図
原始惑星ぎょしゃ座AB bの想像図(提供:NASA, ESA, Joseph Olmsted (STScI))

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