大質量星形成領域の距離を精密に測定、原始星の存在も確認
【2019年1月17日 国立天文台VERA】
わし座に位置する大質量星形成領域「シャープレス76E(Sharpless-76E、Sh2-76E)」では、これまでに行われた干渉計観測により、3ミリ波長帯の電波を放射する塵が集まった領域が確認されていた。この塵の領域は原始星の候補として注目されていたものの、確証は得られていなかった。問題の解決には、天体までの距離を精密に測定し、空間的な広がりや運動を決定する必要がある。
大質量星形成領域「Sh2-76E」の中間赤外線3色合成画像。中心の十字印が今回観測された水メーザーの位置に相当(提供:NASA/IPAC Infrared Science Archive, WISE)
ナイジェリア大学および日本の国立天文台のJames O. Chibuezeさんたちの研究チームは、国立天文台の電波望遠鏡ネットワークVERAを用いて、2010年12月から2012年6月にかけてSh2-76Eからの水メーザーを7回観測した。そして、年周視差の計測から、Sh2-76Eまでの距離を1.92kpc(約6260光年)と求めた。従来は距離の見積もりに40~60%も誤差があったが、今回の計測により誤差が5%まで小さくなっている。
また、固有運動の計測を通じて、Sh2-76Eに含まれる2つの塵領域「MM1」「MM2」それぞれに付随する水メーザーが双方向に噴き出すアウトフローを示していることがわかった。星形成領域におけるアウトフローは、原始星に特徴的に見られるガスの噴出現象であり、MM1とMM2が確かに独立した原始星であることを示す観測結果である。
Sh2-76Eに対するVERAの水メーザー観測結果。(上左)天球面上における水メーザーの位置変化、(上右)東西・南北方向それぞれに対する年周視差の時間変化。(下)Sh2-76E内の塵領域の固有運動。色付きの点が各水メーザー成分を表し、色の違いは視線速度に相当する(青色が観測者に向かってくる方向)。矢印は検出された固有運動の向きと大きさを表す(出典:Chibueze et al. 2017, MNRAS, 466, 4530を一部改変)
さらに、精密に距離を測定できたことから、赤外線波長のデータを星の進化モデルと照らし合わせられるようになり、MM1の方がMM2より若い原始星である可能性も示されている。
〈参照〉
- 国立天文台VERA:大質量星形成領域Sharpless-76Eの精密な距離測定と、原始星の特定に成功
- MNRAS:Sharpless-76E: astrometry and outflows in a protostellar cluster 論文
〈関連リンク〉
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