約120億年前の宇宙に存在する大質量楕円銀河の祖先

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すばる望遠鏡による観測で、約120億年前の宇宙に存在する大質量楕円銀河の祖先の形態が明らかにされた。大質量楕円銀河の形成の謎を解き明かす上で鍵となる重要な成果である。

【2018年11月29日 すばる望遠鏡

宇宙には渦巻銀河や楕円銀河など様々な種類の銀河が存在する。そのうち、大質量楕円銀河がどのように誕生したのかは、重要な研究テーマの一つだ。大質量楕円銀河のほとんどの星は非常に年老いているが、いつどのように大量の星が作られたのか、星形成活動を止めたのはいつか、といったことが調べられている。

特に着目されているのが大きさの進化だ。昔の大質量楕円銀河は非常に小さかったことがハッブル宇宙望遠鏡の観測などからわかっていて、それが大きくなる進化シナリオとして小質量銀河同士の合体などが提案されているが、結論は得られていない。

国立天文台TMT推進室の久保真理子さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡でこれまでに得られていた広域多波長深撮像データから、昔の宇宙に存在する大質量銀河の候補天体を選び出した。昔(遠方)の銀河は暗く小さいため高精度の観測が必要であり、さらに赤方偏移によって可視光線が赤外線の波長まで伸びるため赤外線での観測も必要となるが、すばる望遠鏡のデータはこの目的に非常に適している。

久保さんたちは、約120億年前の宇宙で星形成を止めて、すでに成熟した、太陽の1000億個分に相当するほどの質量を持つ大質量銀河の候補を複数発見した。この質量は現在の宇宙の大質量楕円銀河に匹敵するもので、初期宇宙にこれほど大質量の成熟した銀河が存在することは大きな驚きだ。

大質量銀河の候補が選び出された領域
星形成を止めた成熟した大質量銀河の候補を選び出した領域(SXDS領域)のカラー合成図 。拡大図は約120億年前の大質量楕円銀河の祖先をすばる望遠鏡で観測した高分解能近赤外線画像(提供:国立天文台、以下同)

さらに、これらの銀河の近赤外線高分解能画像を新たにすばる望遠鏡で撮影した結果 、約120億年前の大質量楕円銀河は有効半径(表面輝度の半分が入る半径)がわずか1600光年ほどであることがわかった。これは、現在の宇宙に存在する同程度の星質量(銀河内のすべての星の総質量)を持つ大質量楕円銀河の大きさの約20分1しかなく、驚くほど小さい。

では、120億年前の宇宙に存在する小さい大質量銀河は、どのようなサイズ進化の結果、現在の大質量楕円銀河になったのだろうか。研究チームは、今回見つかった銀河を含めた各時代の最も重い銀河が、現在の宇宙に存在する最も重い銀河に進化したと仮定して、過去の研究成果も利用して銀河の星質量の進化を調べた。すると、最も重い銀河の大きさと星質量進化は、小質量銀河の合体シナリオでよく再現できることがわかった。

各時代における銀河の星質量とサイズの関係
各時代における銀河の星質量(横軸)とサイズ(縦軸)の関係を示したグラフ。灰色の実線カーブは、たくさんの小質量銀河の合体、点線カーブは大質量銀河の合体で期待される星質量・サイズ進化

「すばる望遠鏡の観測で銀河の大きさを何とか測ることができました。これらの銀河のより詳細な形を調べることで、どのように形成されたかをさらに調べることができます。まだまだ観測が必要です」(国立天文台ハワイ観測所 田中賢幸さん)。

「今回の観測でも形態を十分に分解できたわけではありません。日本が国際協力で進めている口径30mの次世代超大型光学赤外線望遠鏡『TMT』では、更に詳細な遠方銀河の形態研究が期待されます。また、120億光年を超える遠方では、NASAの次世代宇宙望遠鏡であるジェームズ・ ウェッブ宇宙望遠鏡が活躍するでしょう」(久保さん)。