原始太陽のそばでできた石英が南極隕石から見つかった
【2018年7月10日 総合研究大学院大学】
地球にやってくる隕石のうち、「コンドライト」と呼ばれる隕石は太陽系が誕生したころの物質や組成を保っている始原的な隕石だ。こうした隕石を分析することで、太陽系が誕生した時代の情報を得ることができる。
総合研究大学院大学の小松睦美さんたちの研究チームは、1979年に南極のやまと山脈付近で採取された南極隕石「Yamato-793261」の分析を行った。この隕石はコンドライトの中でも有機物などを多く含む「炭素質Renazzoタイプ(CR)コンドライト」で、小惑星探査機「はやぶさ2」が探査する小惑星「リュウグウ」などと同じ「C型小惑星」が起源だと推定されている。炭素質コンドライトは形成されたときに200℃以上の高い温度を経験していないため、原始太陽系円盤の生の情報をそのまま保持している貴重なサンプルだ。
南極隕石Yamato-793261(提供:国立極地研究所)
コンドライトには「難揮発性包有物」と呼ばれる、カルシウムやアルミニウムが豊富な鉱物の集合体が含まれている。難揮発性包有物が作られたのは約45億年前で、太陽系最古の物質だといえる。小松さんたちはYamato-793261隕石に含まれている様々な鉱物のうち、難揮発性包有物の一種である「アメーバ状かんらん石集合体 (AOA)」の成分を詳しく調べた。
分析の結果、この隕石のAOAには、通常含まれているかんらん石や輝石に加えて、シリカ(二酸化ケイ素)が含まれることが明らかになった。このシリカの結晶構造を詳しく調べたところ、シリカの中でも低い温度で結晶になる「石英」であることがわかった。
原始太陽系星雲のイラスト。右上はYamato-793261隕石中のAOA、左下は石英結晶の構造。赤はケイ素、青は酸素原子(提供:NASA/JPL-Caltech)
また、このAOAの中には、スカンジウムやジルコニウムを多く含む「超難揮発性鉱物」と呼ばれる鉱物も見つかった。超難揮発性鉱物は石英とは対照的に、かなり高い温度で作られる鉱物だ。これらのことから、AOAの鉱物は、原始太陽系星雲のガスが高温の状態から徐々に冷えることで、高温から低温まで様々な温度でできる鉱物が連続的に成長して形成されたものと考えられる。
さらに、このAOAの鉱物に含まれる酸素の同位体はすべて、太陽の酸素同位体の組成に近いものだった。これらの鉱物が太陽に近い場所で作られ、それが太陽系円盤の運動で現在の小惑星帯の付近まで飛ばされて、やがて小惑星として集積したことを示唆する結果だ。
今回見つかったシリカは地球の岩石の大部分を作っている最もありふれた鉱物で、「Tタウリ型星」という生まれたばかりの恒星や「AGB星」という進化末期の星にも存在していることが示唆されているが、始原的な隕石からシリカが見つかった例はごくわずかしかない。また、これまでの理論計算では、原始太陽系星雲のガスからシリカは作られないという結果になっていて、太古の太陽系で実際にシリカが凝縮されたかどうかはよくわかっていなかった。研究チームでは、太陽系円盤の中心部でまずシリカ以外の鉱物が先に凝縮することで化学組成の分離したガスができ、その中で今回見つかったシリカが作られたと推定している。
原始太陽系星雲の模式図。難揮発性包有物(AOA)は原始太陽の近くで形成された後、小惑星帯付近まで飛ばされ、コンドルールや低温のダストと共に小惑星として集積したと考えられる(提供:総合研究大学院大学(Krot and Scott, 2005; Nakashima et al., 2012を改訂))
小松さんたちは、この隕石のAOAを今後さらに詳しく分析し、原始太陽系のごく初期に物質が形成された過程がどのようなものだったか、より詳細な議論を進めたいとしている。さらに、こうした隕石の研究を「はやぶさ2」などの小惑星探査の成果と組み合わせることで、地球の原材料や生命の謎を解く鍵が得られることが期待される。
〈参照〉
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