ニュートリノが質量を持つことを明らかにした梶田さん、ノーベル物理学賞を受賞

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東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章(かじた たかあき)教授が、2015年のノーベル物理学賞を受賞した。ニュートリノが質量を持つ決定的な証拠を示したことが評価されたものだ。

【2015年10月7日 ノーベル財団(1)(2)

梶田さんは、東京大学物理学専攻博士課程終了後、小柴昌俊さん、戸塚洋二さんの下、東京大学理学部の助手としてニュートリノ研究を始めた。そして、1986年にニュートリノ振動と呼ばれる現象の兆候を確認し、その後スーパーカミオカンデ(岐阜県神岡)における観測によって、ニュートリノが質量を持つことを明らかにした。

梶田隆章さん
(左)梶田隆章さん、(右)Arthur B. McDonaldさん(出典:ノーベル財団のリリースより、梶田隆章さん/K. MacFarlane. Queen's University /SNOLAB)

それまで、素粒子物理学の標準模型では、3種類あるニュートリノはどれも質量がゼロであるとされていた。梶田さんらスーパーカミオカンデ実験グループが行った、宇宙線が大気と衝突するときに生成される大気ニュートリノの観測により、飛行中にニュートリノの種類が変わるニュートリノ振動の確実な証拠が1998年に世界で初めて示された。

今回のノーベル物理学賞はArthur B. McDonald教授との同時受賞だ。McDonaldさんは2001年頃にカナダのサドバリー・ニュートリノ天文台(Sudbury Neutrino Observatory;SNO)での実験などを主導し、30年来の謎であった太陽ニュートリノ問題(ニュートリノの観測数が太陽の理論モデルと一致しないという問題)の原因がニュートリノ振動であることを明らかにしている。


東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)村山斉 機構長のコメント:

(カブリIPMU ニュース&インフォメーションより)

梶田さんの1998年の大発見は、当然ノーベル賞を与えるべきだ、とずっと思っていました。今までの素粒子物理学のノーベル賞は、すべて「標準理論」という現在の最高の理論を作るのに貢献した人たちが取ってきました。一方、梶田さんと、共同受賞のArt McDonaldさんのお二人は、標準理論だけでは宇宙を説明することができないことを実験的に初めて示したのです。標準理論が物理学の終着点ではなく、今後更に大きな枠組みに変わっていくのだ、という方向性を示した歴史的な業績です。

実は「なぜ宇宙に我々が存在するのか。1対1でできた物質と反物質のバランスを10億分の1だけ崩し、完全に消滅せずにごくわずかの物質だけが残った。どうしてこのバランスを崩すことができたのか」という文字どおり我々の存在がかかった大問題がありますが、ニュートリノが質量を持っていることがわかったために、ニュートリノが物質と反物質を入れ替える橋渡しをし、我々を完全な消滅から救ってくれた「父親」ではないか、という期待が生まれました。この考え方はカブリ数物連携宇宙研究機構の福来・柳田お二人の理論ですが、梶田さんの発見の後俄然有力視されるようになり、今では日本ではハイパーカミオカンデ実験を計画中、アメリカの素粒子物理でもこの研究を最優先で進めています。世界の素粒子物理学の研究の流れを変えた研究です。

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