米国人天文学者2名にノーベル物理学賞−宇宙背景放射の「ゆらぎ」発見で

【2006年10月4日 NASA NewsUCBerkeley News

スウェーデン王立科学アカデミーは、2006年のノーベル物理学賞受賞者はNASAの天体物理学者ジョン・マザー(John C. Mather)氏と米カリフォルニア大学のジョージ・スムート(George F. Smoot)教授の2名であると発表した。


(受賞の記者会見を行うジョン・マザー氏)

受賞の記者会見を行うジョン・マザー氏(提供:NASA/Bill Ingalls.)

(受賞の喜びの笑みを見せるジョージ・スムート氏)

受賞の喜びの笑みを見せるジョージ・スムート氏(提供:Peg Skorpinski photo)

(COBEがとらえた宇宙背景放射のゆらぎ)

COBEがとらえた宇宙背景放射のゆらぎ(提供:COBE Project)

マザー氏とスムート氏は、宇宙背景放射(解説参照)探査衛星COBEによる観測プロジェクトの中心人物だった。2人の受賞理由は「宇宙マイクロ波背景放射が黒体放射に一致することと、非等方であることを発見した」功績である。

ある物体が輝いている(放射している)ときに、波長ごとの明るさの分布が物体の温度のみに依存するものを黒体放射と呼ぶ。COBEは、宇宙背景放射が絶対零度より2.7度だけ大きい物体からの黒体放射に相当することを突き止めた。ビッグバン論によれば、「晴れ上がり」の時点における温度の黒体放射が宇宙全体に放たれ、宇宙膨張とともに冷えていった。COBEの観測結果を説明できるのはこのシナリオだけであり、ビッグバン論に対する決定的な証拠となっている。

さらに、COBEが観測した背景放射は非等方で、場所によって温度が10万分の1度単位で違っていた。「背景放射のゆらぎ」として知られるこの現象は、生まれたての宇宙がすでに不均質であった証拠である。「ゆらぎ」はのちに物質の濃淡を作り出し、そこから宇宙の大規模構造、銀河、恒星、さらに私たちが作り出されたのだ。「ゆらぎ」がなければ、膨張した宇宙はどこまでものっぺりとしていただろうと考えられている。

COBEは、赤外線からマイクロ波長にかけての宇宙背景放射を精密に測定するため1989年に打ち上げられた衛星だ。観測開始からわずか9分で、背景放射が黒体放射に一致することがわかった。この事実を示すグラフが学会で紹介されたときには、スタンディングオベーションが起きた。スムート氏の言葉を借りれば、このときから「宇宙論は思索に基づくものではなくなり、科学となった」。そして「ついに、理論を秤にかけることができるようになった」。今も、観測衛星WMAPなどがCOBEを継ぎ、その結果の確認と宇宙論のさらなる前進に取り組んでいる。

COBEは1000人以上の研究者・技術者が関わる一大プロジェクトであったが、それを率いたのがNASAゴダード宇宙センターの上級天体物理学者、ジョン・マザー氏だ。背景放射が黒体放射と一致することを明かした観測の責任者でもある。マザー氏は現在60歳で、今も次世代宇宙望遠鏡ジェームズ・ウェッブをはじめとした複数のプロジェクトに参加している。また、天文学分野における受賞も数多い。

一方、宇宙背景放射の「ゆらぎ」を見つけるための観測衛星打ち上げをNASAに提案したのがジョージ・スムート氏だ。その後スムート氏はマザー氏とともにCOBEの開発と観測に携わり、「背景放射のゆらぎ」を発見する観測の責任者となった。スムート氏は現在61歳で、1994年からカリフォルニア大学バークレー校の教授を務めている。

宇宙背景放射って何?

宇宙が高温・高密度状態で誕生して膨張しながら現在の姿になったとする「ビッグバン論」を提唱した米国の理論物理学者ジョージ・ガモフ(1904年〜1968年)は、さらに「宇宙背景放射」を予言した。

ビッグバンの後しばらくの間は電子と光子が衝突し合って光が直進できない時代があったと考えられている。ガモフは、宇宙誕生から38万年たったころには宇宙が冷えてきて、素粒子から水素原子がつくられて光が直進できるようになると考えた。この時期を「宇宙の晴れ上がり」と呼び、そのころの光を観測できるはずだとした。

1964年に、背景放射は天の川銀河外のあらゆる方向からやってくる電波(マイクロ波)として発見された。宇宙が膨張しているため、ガモフが予言した光の波長は赤方偏移で大きく引き伸ばされ、マイクロ波となって観測されたのだ。

こうして「ビッグバン論」は信じられるようになり、背景放射を発見したペンジアスとウィルソンの2人は1978年ノーベル物理学賞を受賞している。

(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」Q141より抜粋[実際の紙面をご覧になれます])