雲のない「快晴」の系外惑星

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チリのVLTを使った分光観測で、大気にまったく雲が存在しない系外惑星が初めて見つかった。

【2018年5月14日 エクセター大学

「WASP-96 b」は表面温度が約1000℃という典型的な高温の巨大ガス惑星だ。半径は木星より2割ほど大きく、質量が土星とほぼ同じであることから「ホットサターン」とも呼ばれる。ほうおう座の方向、地球から980光年の距離にある太陽に似た星の周りを3.4日周期で公転している。

WASP-96 bの想像図
「ホットサターン」WASP-96 bの想像図。ナトリウムは黄色からオレンジ色の光を吸収するため、遠くの観測者からこの惑星を見ると青みがかった色に見えると考えられる(提供:Engine House)

英・エクセター大学のNikolay Nikolovさんを中心とする研究チームは、チリにあるヨーロッパ南天天文台の口径8.2m超大型望遠鏡を使い、WASP-96 bが主星の手前を通過(トランジット)する際にこの惑星の大気を調べた。主星の光が惑星やその大気によって遮られる様子を観測することで、惑星の大気組成を決めることができるのだ。

人間の指紋に二つとして同じものがないのと同様に、原子や分子にも、そのスペクトルにそれぞれ固有の特徴がある。この特徴を使うと、天体にその原子や分子が存在するかどうかがわかる。今回の分光観測で、WASP-96 bのスペクトルからナトリウムのD線と呼ばれる吸収線を完全な形で検出することができた。

長年にわたって、高温の巨大ガス惑星の大気にはナトリウムが存在すると予想されていた。惑星の大気にナトリウムがあると、主星のスペクトルの中にナトリウムの吸収線が現れるが、大気には圧力があるため、この吸収線に「圧力幅」と呼ばれる広がりが生じ、キャンピングテントのような裾のある形の吸収線になる。

「これまで系外惑星の大気では、ナトリウムの吸収線は非常に細いピークの部分しか見えないか、もしくはまったく検出されませんでした。ナトリウムの特徴的なテント型のスペクトル線は大気の深い場所でしか作られないため、ほとんどの系外惑星では雲に邪魔されてしまうようなのです」(Nikolovさん)。

ナトリウムの吸収線の模式図
スペクトルに現れるナトリウムの吸収線の模式図。惑星大気の上層部を通った光には幅の細い吸収線が現れ、深い(圧力の高い)部分を通った光には幅の広い吸収線ができるため、全体として裾のあるテント型の吸収線になる。そのため、縦軸は光が通った惑星大気の高度も反映している。(左)大気に雲がなければ裾まで完全な吸収線となる。(右)雲の層があると吸収線の裾の部分が失われる(提供:N. Nikolov/E. de Mooij)

WASP-96 bではナトリウムの吸収線がピークから裾まで完全な形で検出されたことから、この惑星の大気にはほぼまったく雲がないとみられる。このおかげで、研究チームはこの惑星の大気に含まれるナトリウムの量も測定することができた。測定の結果、ナトリウムの存在量は私たちの太陽系の物質とほぼ同程度であることがわかった。

「高温の系外惑星の中でどの惑星に厚い雲が存在するかを予想するのは難しいことです。非常に雲の多い大気からWASP-96 bのようにほとんど雲のない大気まで、あらゆる種類の惑星大気を観測することで、惑星の雲が何からできているかをよりよく理解することができるようになるでしょう」(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校 Jonathan J. Fortneyさん)。

研究チームでは、地上望遠鏡だけでなくハッブル宇宙望遠鏡やジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使うことで、ナトリウム以外の物質の痕跡も検出することを目指している。「WASP-96 bは、将来の観測で水や一酸化炭素、二酸化炭素といった他の分子についても存在量を決めるまたとない機会をもたらしてくれるでしょう」(アイルランド・ダブリンシティ大学 Ernst de Mooijさん)。

(文:中野太郎)