アマチュア天文家がとらえた、爆発した瞬間の超新星
質量の大きな恒星は一生の最期に超新星として爆発するが、この星がどのような構造を持っていて、それが爆発の性質にどのような影響を与えるのかは明らかになっていない。
理論的には、星の中心部で発生した爆発の衝撃波が星の内部へ伝わった後に表面へ到達し、X線や可視光線の電磁波が鋭いピークとなって放射されると考えられている。超新星のこの最初期の様子は「ショックブレイクアウト」と呼ばれており、突如として起こるという予測不可能な性質と短い継続時間のために観測が難しく、近年の大型観測の努力にもかかわらず決定的な観測例はなかった。
2016年9月、アルゼンチン・サンタフェ州ロサリオのアマチュア天文家Victor Busoさんは、家の屋根の上にある口径40cm反射望遠鏡に搭載したばかりの新しいカメラのテストを行っていた。天頂近くにあった、ちょうこくしつ座の渦巻銀河NGC 613にカメラを向け、短時間露出で写真を撮り始めてから1時間近くしたところで、Busoさんは銀河中心の南側に出現した新しい小さな光点に気付いた。光点は移動して画像から消えることはなく、むしろ時間が経つにつれて、より鮮明になっていった。
Busoさんがとらえた現象は超新星爆発で、「SN 2016gkg」と命名されたが、この観測結果がこれまでにない性質のものであることがすぐに明らかになった。非常に暗い光度からの急速な発光率は、過去に類似するものがなく、Busoさんが撮影した連続画像はショックブレイクアウトの段階でSN 2016gkgが発見されたことを示す決定的な証拠だった。
この発見は、当夜の空のコンディションが理想的なものだったという好条件だけでなく、様々な幸運とも言える偶然が積み重なりもたらされたものである。超新星爆発の頻度は平均して各銀河で1世紀あたり1個発生するかどうかという程度で、1世紀が90万時間もあることを考えると、超新星爆発をちょうどとらえられる機会は100万分の1より小さい確率に過ぎない。加えて、銀河の中心部や腕の部分など明るい場所で起こっていたら見過ごされていた可能性もあり、SN 2016gkgの発見はちょうど良いタイミング、ちょうど良い場所で爆発したことが幸いした。
「アマチュア天文家によるたいへん素晴らしい発見だとまず思いました。Buso氏がこの超新星爆発をどのように観測し、何を目の当たりにしたかを私たちに話してくれた際、これは類い稀な発見だと気付きました」(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)およびアルゼンチン・ラプラタ国立大学宇宙物理学研究所 Melina Berstenさん)。
Berstenさんたちの研究チームはBusoさんの観測画像を注意深く解析し、測光データとコンピューターシミュレーションを比較した。そして、SN 2016gkgの初期の急激な増光が間違いなく超新星爆発に伴う衝撃波の出現により生じたものであることをモデルで示した。この結論は、超新星爆発のその後の様子がモデルによって矛盾なく再現されたことで裏付けられた。アマチュア天文家がもたらした幸運な発見により、ショックブレイクアウトの段階も含めた研究チームの全段階のモデルの正しさが検証されたのである。
「ショックブレイクアウトは短時間ながら最も明るく輝く瞬間ですので、通常よりずっと遠方の超新星が発見される可能性があります。現在、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ『ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)』を用い遠方まで広視野で撮像を行って、ショックブレイクアウトを発見するプロジェクトが進行中です。多数観測を行えば、稀な現象でも発見することが可能となるはずで、遠方の超新星の特性や出現率に違いがあるかどうかを知ることができるようになるでしょう。そうした観測と理論モデルの構築の基礎として、今回の発見は大変貴重です」(カブリIPMU 野本憲一さん)。
〈参照〉
- カブリIPMU:アマチュア天文家の捉えた超新星爆発は、爆発の瞬間だった!
- W.M.Keck Observatory:Amateur Astronomer Captures Rare First Light of Massive Exploding Star
- natureasia.com:思いがけなく撮影された、生まれたばかりの超新星
- Nature:A surge of light at the birth of a supernova 論文
〈関連リンク〉
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