ハッブルの高精細3D映像でオリオン座大星雲へダイブ

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1月8~12日に開催された米国天文学会の年会で、ハッブル宇宙望遠鏡の新たな観測成果が数多く発表された。オリオン座大星雲の3D飛行映像、最遠方の銀河、カラフルなバルジの星々など視覚的にも科学的にも興味深い成果ばかりだ。

【2018年1月18日 NASA

1月8日から12日まで米・ワシントンDCで開催された米国天文学会第231回年会では、NASAのハッブル宇宙望遠鏡 (HST) による目覚ましい成果がいくつも発表された。観測対象は太陽近傍の星形成領域から天の川銀河の中心部、宇宙の地平線に迫る遠方宇宙まで、非常に広い範囲にわたっている。これらの発見はすべて、HSTの比類ない分解能や高い感度、観測波長の広さなど第一級の性能によって得られたものだ。

ハッブルとスピッツァーのコラボレーションによる3D飛行映像

NASAの教育普及プロジェクト「Universe of Learning」の研究者とCGの専門家からなるチームは、HSTの可視光線画像と赤外線天文衛星「スピッツァー」で得られた赤外線画像とを組み合わせ、星形成領域であるオリオン座大星雲の中を飛行する壮大な3次元映像を作り出した。宇宙望遠鏡の実際の科学観測データにハリウッドの映像技術を取り入れることで、これまでで最も精密なオリオン座大星雲の多波長映像を実現している。完成した3分間の映像では、美しい星雲の内部を飛び回るかのような斬新な体験を楽しむことができる。

オリオン座大星雲内部を飛行する動画(提供: NASA, ESA, F. Summers, G. Bacon, Z. Levay, J. DePasquale, L. Hustak, L. Frattare, and M. Robberto (STScI), R. Hurt (Caltech/IPAC), M. Kornmesser (ESA), and A. Fujii; Acknowledgement: R. Gendler)

最遠方の銀河を拡大する宇宙のズームレンズ

HSTとスピッツァーを使った集中サーベイ観測により、重力レンズ現象で拡大・増光された銀河の像としてはこれまで観測された中で最も遠くにあるものが見つかった。SPT0615-JDと命名されたこの銀河は宇宙が誕生してからわずか5億年しか経っていない時代の「銀河の胎児」と言うべき天体だ。この時代の原始銀河は他にもいくつか観測されているが、こういった天体は普通は小さく非常に遠いため、画像では赤い点にしか見えない。しかし今回見つかった銀河の場合、手前にある銀河団SPT-CL J0615-5746(がか座の方向)の重力場によってこの銀河からの光が増光され、さらに像が円弧状の形に引き延ばされている。この重力レンズ効果のおかげで、銀河の質量が太陽質量の30億倍(天の川銀河の約1/100)以下、直径が2500光年(小マゼラン雲のおよそ半分)以下と推定することができた。このような遠方の銀河候補天体で大きさや質量を推定できたものは初めてだ。

銀河団SPT-CL J0615-5746
HSTで撮影された銀河団SPT-CL J0615-5746。枠内は銀河団の背景にある遠方の銀河SPT0615-JDの像が増光され、さらに円弧状の形に引き延ばされたもの(提供:NASA, ESA, and B. Salmon (STScI))

オリオン大星雲で過去最多の褐色矮星を発見

HSTを用いたディープサーベイ観測によって、オリオン座大星雲の中で生まれている若い天体の中にこれまでで最も多くの褐色矮星が見つかった。褐色矮星は温度が非常に低いため水分子が分解されずに存在するという特徴を利用し、天体の大気に含まれる水分子の有無によって褐色矮星かどうかを判別している。地上観測では地球の大気に含まれる水蒸気が邪魔をするため、天体由来の水分子を検出するのは難しく、宇宙望遠鏡であるHSTならではの成果だ。

小質量星・褐色矮星・惑星のサーベイ画像
HSTによる小質量星・褐色矮星・惑星のサーベイ画像。画像上の印はその天体が連星であることを示し、内側の太い円が主星、外側の細い線が伴星の種類を表す(赤が惑星、オレンジが褐色矮星、黄色が恒星)。画像左上の印は主星がなく2個の惑星だけからなる連惑星を示す。画面右中央には2個の褐色矮星からなる連星が見られる。画像の広さはおよそ4光年×3光年(提供:NASA , ESA, and G. Strampelli (STScI))

天の川銀河の中心バルジの考古学

天の川銀河のバルジ(円盤銀河の中央に見られる膨らんだ領域)に存在する恒星約1万個に関する約9年分の観測データの分析から、バルジは様々な年齢の星が異なる速度で運動しているダイナミックな環境であることが明らかになった。2万光年ほどの遠距離にあるバルジ内の星の運動を数千個も同時に観測できる高分解能の望遠鏡はHSTしかなく、これもHSTの特別な能力による成果である。天の川銀河の進化や伴銀河との衝突合体過程について理解するための新たな手掛かりになることが期待される。

天の川銀河のバルジの星々
HSTが撮影した天の川銀河のバルジの星々(提供:NASA, ESA, and T. Brown (STScI))

点滅するブラックホール

HSTとX線天文衛星「チャンドラ」の観測により、うしかい座の方向約9億光年の距離にある銀河SDSS J1354+1327(以下J1354)の中心に存在する超大質量ブラックホールがガスを飲み込んで高エネルギーのジェットを2回放出した痕跡が見つかった。チャンドラのX線画像でブラックホールの南北に2つの電離ガスが見えていることから、ジェットの放出は過去に10万年の間隔を空けて2回起こったと考えられる。このようなブラックホールにガスが落ち込むときには高エネルギーのジェットが明滅することが予想されているが、今回初めてその証拠が「現行犯」でとらえられたものだ。

SDSS J1354+1327
SDSS J1354+1327。チャンドラによるX線画像(紫)とHSTによる可視光線画像(赤・緑・青)を合成したもの。枠内の紫色の領域が超大質量ブラックホールの存在を示す。その上下にある緑色の領域がブラックホールから放出された2回の高エネルギージェットの痕跡(提供:X-ray NASA/CXC/University of Colorado/J. Comerford et al.; Optical: NASA/STScI)

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