連星の核を持つ彗星288P
小天体2006 VW139は2006年11月に米・スペースウォッチ・プロジェクトで発見された天体で、火星と木星の間にある小惑星帯に存在し5.3年周期で公転している。発見当初は小惑星と考えられていたが、その後に米・パンスターズ望遠鏡による観測から彗星として活動していることがわかり、288Pの符号が付けられた(名称はまだ決まっていない)。
独・マックス・プランク研究所のJessica Agarwalさんたちの研究グループが、この彗星が近日点を通過する2か月前の2016年9月にハッブル宇宙望遠鏡で観測を行ったところ、ほぼ同じ質量と大きさを持つ2つの小惑星が約100km間隔で彗星の核の部分に存在し、お互いに周回していることがわかった。小惑星帯にある彗星(メインベルト彗星)が連星として観測されたのは初めてである。
2016年8月から9月にかけてハッブル宇宙望遠鏡で撮影した288P/2006 VW139。1か月弱の間に互いの星を周回している様子がわかる。9月20日以降は彗星の尾の方向が変わり始めている(提供: NASA, ESA, and J. Agarwal (Max Planck Institute for Solar System Research))
研究グループではこの彗星の成り立ちについて、およそ5000年前に高速回転によって2つに分裂し、それ以来連星として存在していると推測している。「小惑星帯にある他の連星小惑星の特徴とも異なっており、どうやって小惑星帯に存在しているのかという謎も残っています。今後、似たような天体のさらなる研究や観測が必要です」(Agarwalさん)。
このような天体の起源や進化を理解することは、太陽系全体の形成と進化を理解する上で重要な要素であり、どうやって地球に水がもたらされたのかを解明する鍵ともなり得る。
〈参照〉
- ESA:Hubble discovers a unique type of object in the Solar System
- NASA:Comet or Asteroid? Hubble Discovers that a Unique Object is a Binary
- Nature:A binary main-belt comet 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2022/06/20 太陽に接近する彗星の崩壊への道のり
- 2022/05/25 彗星の酸素輝線の起源を解明
- 2022/04/18 小惑星による2.6等星の食、観測成功!
- 2022/04/06 2022年4月13日 小惑星アフティによるぎょしゃ座θ星マハシムの食
- 2022/03/28 小惑星リュウグウがかつて彗星だった可能性を指摘
- 2022/03/17 ぎょしゃ座2.6等星の星食帯予報を改良、九州中部→南部へ
- 2022/03/01 2021年度日本天文学会各賞の受賞者発表 彗星発見の西村さんら
- 2022/02/28 「はやぶさ2」が2026年フライバイの小惑星を地上から観測
- 2022/01/31 アンモニア含有鉱物が示す小惑星の大移動
- 2022/01/11 衝突により表層が新鮮になった小惑星
- 2022/01/05 2022年1月13日 イリスがふたご座で衝
- 2021/12/03 池谷・関彗星発見から56年、名著『未知の星を求めて』新版発売
- 2021/12/01 2021年12月 レナード彗星が5等前後
- 2021/11/17 レナード彗星、順調に増光中
- 2021/10/08 ふたご群の母天体ファエトンによる恒星食、観測大成功!
- 2021/09/24 10月4日、小惑星ファエトンによる恒星食を観測して探査機ミッションに協力
- 2021/09/09 関勉さんの名著『未知の星を求めて』が再刊
- 2021/09/08 空に浮かぶダイヤモンド、ベンヌとリュウグウの形の成因
- 2021/09/02 2021年9月9日 パラスがうお座で衝
- 2021/05/25 天体衝突による熱が小惑星表面で生命の材料を合成