ベンヌの原材料物質は多様な起源を持っていた

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探査機「オシリス・レックス」が持ち帰った小惑星「ベンヌ」の試料の分析から、多様な起源を持つ物質が検出された。初期の太陽系では物質の大規模な移動や混合があったようだ。

【2025年9月1日 北海道大学

2023年にNASAの探査機「オシリス・レックス」は、小惑星「ベンヌ」で採取した試料を地球に持ち帰った。ベンヌは「はやぶさ2」が探査した「リュウグウ」と同じく炭素質の小惑星だ。これまでの初期分析で、ベンヌの物質はリュウグウや「イブナ型」という始原的なタイプの炭素質隕石に似ていることがわかっている。しかし、ベンヌの起源やその材料物質、リュウグウとの関係については不明な点が多く、より詳しい分析が求められていた。

今回、NASAや米・アリゾナ大学など、各国の研究者による国際共同研究グループがベンヌ試料の化学・鉱物・同位体分析を行った。この研究グループには北海道大学の研究チームも参加しており、走査電子顕微鏡を使った試料の微細構造観察と、同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)によるベンヌの原材料物質の起源推定を担当した。

分析の結果、46億年前の太陽誕生以前に寿命を終えた前世代の恒星を起源とする鉱物(プレソーラー粒子)や、太陽近傍の1000℃以上の高温環境で生成された鉱物、さらに太陽系外縁部などの低温環境で生成された氷や有機物など、非常に多様な原材料物質からベンヌの母天体が形成されていたことがわかった。この事実は、初期の太陽系で物質の大規模な移動と混合があったことを示している。

ベンヌ試料に含まれる鉱物
(左)オシリス・レックスが撮影した小惑星「ベンヌ」、(右)ベンヌ試料に含まれる、高温環境で生成された鉱物の電子顕微鏡写真。上はコンドルール状、下はアメーバ状のかんらん石粒子(提供:NASA, Barnes, Nguyen et al. 2025)

これまでの「はやぶさ2」試料の研究から、リュウグウも同じように、太陽以外の恒星に起源を持つ鉱物や、高温環境でできた鉱物、低温環境でできた氷や有機物など、幅広い環境で生まれた原材料物質から形成されていることがわかっている(参照:「リュウグウ試料で太陽系最古の岩石の年代測定に成功」「小惑星リュウグウは彗星と同郷か」「リュウグウ粒子から炭酸・塩が溶け込んだ水を発見」)。

今回の分析によって、ベンヌとリュウグウ、さらにイブナ型炭素質隕石が非常に類似した物質であることや、ベンヌもリュウグウと同じように太陽系の遠方領域で形成された可能性が出てきた。

今後、北海道大学グループではベンヌ試料の年代測定を行い、原材料物質の形成年代やベンヌの母天体が生まれた年代を明らかにする計画だ。こうした詳細な分析によって、両小惑星の起源や進化過程に共通点があるかどうかを解明できれば、惑星形成理論をさらに進展させる原動力になると期待される。

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