クエーサーから噴き出すガスの変動メカニズムに新知見

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信州大学などの研究グループがクエーサーを3年以上にわたってモニター観測し、クエーサーから放出されるアウトフローが時間変動する原因として、クエーサーの明るさの変動が関わっていることを確認した。

【2016年6月8日 信州大学国立天文台 岡山天体物理観測所

遠方宇宙の銀河には、その中心部分が銀河全体に比べておよそ100倍以上の明るさで輝く「クエーサー」というタイプのものがあり、クエーサーからはアウトフローと呼ばれるガスが高速で噴き出している。

クエーサーから噴き出すアウトフローの想像図
クエーサーから噴き出すアウトフロー(白く竜巻状に描かれた部分)の想像図(提供:ESA/AOES Medialab)

大きなエネルギーと様々な元素を含んだアウトフローは、自身が属する銀河だけでなく、周辺各所に大きな影響をもたらす。クエーサーの研究においてアウトフローは重要な要素の一つだが、アウトフロー自身は輝かないため、背後にある発光領域の光を吸収した痕跡(吸収線)が調べられてきた。

アウトフローの吸収線は数か月から数年という長い時間スケールで変動しており、アウトフローのガス密度や温度が変動していることが示唆されているが、時間変動の原因はよくわかっていない。変動を説明する様々な仮説のうち最も有力視されているのは、クエーサーの明るさが変化するとアウトフロー中の特定イオンの相対的な量が変化し、対応する吸収線の強度が変化するというアイディアだ。「電離状態変動シナリオ」と呼ばれているこの説を検証するためには、長期にわたるモニター観測が必要となる。

信州大学の堀内貴史さんたちの研究グループは、東京大学木曽観測所の木曽105cmシュミット望遠鏡/KWFC(木曽広視野カメラ)と国立天文台岡山天文天体物理観測所の188cm反射望遠鏡/京都岡山可視低分散分光撮像装置「KOOLS(Kyoto Okayama Optical Low-dispersion Spectrograph)」を用いて、2012年から3年以上にわたり9つのクエーサーの長期モニター観測を行った。線幅が広いBAL(Broad Absorption Line)という分類の吸収線を持つクエーサーのモニター観測ではすでに仮説を支持する結果が得られていたことから、研究グループでは観測対象を幅の狭い吸収線であるNAL(Narrow Absorption Line)を持つクエーサーに絞った。

かんむり座の方向にあるNALを持つクエーサー「HS 1603+3820」では、3年の間にクエーサーがまず暗くなり、その後明るくなった。一方、アウトフローによる吸収強度は増加後に減少し、変動パターンに数か月のずれがあるものの両者の同期が確認できた。クエーサーの変光によってイオンの電離や再結合が起こり吸収に寄与するイオンが増減したことが変動の理由だと考えられ、NALを持つクエーサーに対しても電離状態変動シナリオが適用できることを示す結果である。

HS 1603+3820の明るさの変化と吸収線強度の変化
HS 1603+3820の明るさの変化(上)と吸収線の強さの変化(下)。明るさの変化から数か月遅れて吸収線の強さも似た傾向で変動している(提供:Horiuchi et al. 2016、発表資料より)

ただし、HS 1603+3820で確認された光度変動の最大値はおよそ0.23等級(クエーサーからの光の量が20%減)だが、この値は吸収強度の変化を説明するには小さすぎるという問題が残っている。他のクエーサー8天体の変光幅も0.3等級程度で、吸収強度の変化に必要な変光量には遠く及ばない。アウトフローの時間変動を説明するためには、クエーサーの変光の他にも何か別のメカニズムが同時に働く必要がありそうだ。アウトフローよりも高温状態にある別のガス(暖かい吸収体)の変動が可能性のある要因の一つと考えられ、研究グループではX線での同時モニター観測を計画している。