宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
【2024年9月6日 アルマ望遠鏡】
これまでの観測から、宇宙年齢が10億歳以下の初期宇宙においても、太陽質量の10億倍を超えるような超大質量ブラックホールが多数発見されている。こうしたブラックホールに大量の星間物質が飲み込まれると、時に銀河全体を上回るほど明るく輝くことがあり、そのような天体は「(高光度)クエーサー」と呼ばれる。クエーサーを宿す銀河では、毎年太陽の数百~数千個分もの星が爆発的に形成されている。
超大質量ブラックホールの成長や爆発的な星形成活動を引き起こしたり維持したりするメカニズムとして有力な説が、銀河同士の合体だ。星間物質が豊富な銀河同士が合体すると、ガスが圧縮されて大量に星が作られ、同時に中心部に流入した星間物質によってブラックホールの成長も進むと考えられる。そこで、高光度クエーサーの祖先と期待される合体前段階の銀河・ブラックホールを詳しく調査することが、初期宇宙の天体形成の理解に重要となる。しかし、合体を起こす前の銀河は非常に暗く発見が難しいため、祖先天体の研究は長らく進んでいなかった。
愛媛大学の松岡良樹さんたちの研究チームは今年6月、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」を用いた大規模探査データの解析から、宇宙年齢がまだ9億歳の「宇宙の夜明け」と呼ばれる時代に非常に低光度のクエーサーが2つ隣り合って並んでいる領域を発見したことを発表した。およそ128億光年彼方に位置するこのペアは、超大質量ブラックホールの成長が本格化する前段階、つまり銀河合体の前段階の天体と期待されたが、データからは超大質量ブラックホールの情報しか得られず、母銀河同士が本当に合体する運命にあるのか、将来的に高光度クエーサーに成長するかどうかはわからなかった。
そこで、国立天文台の泉拓磨さんの研究チームは、このペアクエーサーの母銀河をアルマ望遠鏡で観測した。その結果、約4万光年離れた2つの母銀河を橋渡しする、星間物質から成る構造の分布やその運動が、銀河同士の相互作用を明確に示していることが明らかになった。
さらに、観測データから計算した両銀河のガスの総質量は太陽質量のおよそ1000億倍となり、中心核が桁違いに明るい高光度クエーサーの母銀河に比べても同等以上あることもわかった。これだけ大量の物質があれば、合体後の爆発的な星形成活動やブラックホールが成長するための物質も容易にまかなえるはずだ。
「2つの銀河があたかもダンスをしているように相互作用し、しかもその中心にはこれから活発に成長していくブラックホールがいる。この様子を初めて見た時、その美しさに驚きました。すばる望遠鏡とアルマ望遠鏡のタッグで、銀河中心核(超大質量ブラックホール)と母銀河のガスの様子が見えてきました。しかし、まだ母銀河の恒星の性質については不明です。たとえば現在稼働中のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を使うことで、この天体の恒星の性質も詳しくわかることでしょう。ようやく見つけた高光度クエーサーの祖先です。宇宙の中の貴重な実験室として、様々な観測を通じてその性質の理解を深めていきたいと思います」(泉さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:宇宙の夜明けに踊るモンスターブラックホールの祖先
- すばる望遠鏡 / 国立天文台 / 愛媛大学 / 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 / 東京大学大学院理学研究科 / 名古屋大学
- The Astrophysical Journal:Merging Gas-rich Galaxies That Harbor Low-luminosity Twin Quasars at z = 6.05: A Promising Progenitor of the Most Luminous Quasars 論文
〈関連リンク〉
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