45m電波望遠鏡と電波ヘリオグラフで大追跡、太陽黒点の謎

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野辺山45m電波望遠鏡と野辺山電波ヘリオグラフを用いた太陽黒点の観測から、黒点上空ではミリ波の電波放射が周辺よりも低いことが明らかになり、黒点大気が予想より更に上層まで黒点の磁力に支配されている可能性が示された。

【2016年2月15日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所

太陽の表面に現れる黒点は、強い磁場の影響によって周囲より温度が低い層が見えているものだ。可視光線では太陽の光球と呼ばれる部分で黒点が暗く見えるが、波長が1~10mmのミリ波という電波で観測すると、光球より上層の彩層部分を見ることができる。黒点からのミリ波の放射量は彩層の大気の温度や密度に依存するため、ミリ波で見た黒点の明るさは黒点上空の大気の状態を推測する重要な指標となる。

情報通信研究機構の岩井一正さんを中心とする国立天文台、宇宙航空研究開発機構、茨城大学からなる合同研究グループは、長野県野辺山にある2グループの電波望遠鏡を用いて2波長のミリ波で黒点観測を行った。

一つは「野辺山45m電波望遠鏡」だ。もともと太陽以外の天体観測用に作られたが、様々な工夫により近年太陽観測も可能となり、波長約3mmで黒点を観測した。もう一つは「電波ヘリオグラフ」と呼ばれる太陽観測専用の電波干渉計だ。直径0.8mのアンテナ84台を組み合わせることで直径500mの望遠鏡と同じ空間分解能が得られるシステムで、データ解析技法を応用して波長8.8mmで黒点を観測することができるようになった。

太陽を観測する45m電波望遠鏡と電波ヘリオグラフ
太陽を観測する45m電波望遠鏡と電波ヘリオグラフ(提供:国立天文台)

まず、ミリ波観測のデータをNASAの太陽観測衛星「SDO」による紫外線観測のものと比較し、ミリ波の電波放射が彩層のどの深さから放射されているのかを調べたところ、彩層の比較的深い領域から放射される1700Åの紫外線で見える構造と3mmの電波放射領域とが似ていることがわかった。また、彩層の最も上部で放射される304Åの紫外線と8.8mmの電波で見える構造も似ており、ミリ波の波長が長くなるほど上層から放射されるという理論的示唆が初めて観測的に検証された。

「SDO」が観測した紫外線の太陽画像上に等高線で電波の明るさを表示したもの
「SDO」が観測した紫外線の太陽画像上に等高線で電波の明るさ(左:野辺山45m電波望遠鏡、右:電波ヘリオグラフ)を表示したもの。紫から赤になるにつれて電波の明るさが高くなり、緑が平均的な明るさを表す(提供:国立天文台、NASA。以下同)

さらに、黒点中心部の観測から、黒点は8.8mmの電波で観測しても暗いことが今回初めて発見された。3mmの電波で黒点が暗いことは45m電波望遠鏡の観測ですでに知られていたが、波長の長いミリ波でも同様であることが確かめられたことになる。

紫外線画像に電波ヘリオグラフが観測した電波の明るさを重ねたもの
波長1700Åの紫外線画像に電波ヘリオグラフが観測した8.8mmの電波の明るさを重ねたもの

3mmと8.8mmという2波長の同時観測により、ミリ波の電波の波長が長くなるにつれて放射層が彩層の下部から上部に変化する様子を初めてとらえることに成功し、また太陽黒点では彩層の下部から上部まで一貫して周辺より温度の低い層が見えて暗いことも明らかになった。黒点上空だけ温度の低い層が見えるのは、黒点の強い磁場の影響で大気構造が周辺とは異なるからだ。

黒点大気が予想よりもかなり上層まで強い磁場に支配されている可能性を示唆した今回の研究結果は、黒点上空の大気の過熱機構の理解にとって重要な情報であるだけでなく、黒点上空で磁力のエネルギーが解放されることで発生する爆発現象「フレア」の理解にも一石を投じることになる成果といえる。

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