銀河の「化石」が明らかにした大質量銀河の形成と進化

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ビッグバンから40億年後の宇宙に存在している、既に星形成活動を終えた銀河をすばる望遠鏡で観測したところ、遠方銀河の恒星の性質が近傍宇宙で観測される楕円銀河のものとよく一致することがわかった。また、恒星に刻まれた情報を元に銀河の祖先をあぶり出し、およそ110億年にわたる楕円銀河の進化の様子が描きだされた。

【2015年10月1日 すばる望遠鏡

近傍宇宙に存在する、太陽の1000億倍も重い大質量銀河のほとんどは、星形成活動が見られない楕円銀河などだ。大質量銀河の星形成がいつ頃どのような規模で生じ、どの程度継続したうえで停止に至ったのか、星形成停止後にどのような過程を経て現在のような銀河になったのか、いまだに多くの謎が残っている。

チューリッヒ工科大学の小野寺仁人さんたちの研究チームは、ビッグバンから40億年後(=約100億年前)の宇宙で既に星形成を停止した銀河中の恒星に見られる情報に注目し、星形成の歴史や銀河の進化を調べた。恒星のスペクトルには年齢や金属量、元素組成に応じた特徴が「化石」のように刻み込まれるので、この特徴を手がかりとするのだ。

研究チームでは、すばる望遠鏡の近赤外線多天体撮像分光装置「MOIRCS」を使って遠方にある楕円銀河を多数観測して合成し、200時間もの観測時間に相当するスペクトルを得た。その合成スペクトルを解析したところ、40億年前の宇宙に存在する銀河は誕生から10億年ほど経っており、金属量が太陽に比べて1.7倍、アルファ元素(星形成の継続期間の指標となる元素)と鉄の比が太陽の場合の2倍程度であることがわかった。遠方銀河で恒星のアルファ元素と鉄の比が求められたのは初のことだ。

星形成を停止した銀河24天体の個々のスペクトル(左)と、それらをすべて足しあわせた合成スペクトル(右)
ビッグバンの40億年後の宇宙で観測された、既に星形成を停止した銀河24天体の個々のスペクトル(左)と、それらをすべて足しあわせた合成スペクトル(右)。クリックで拡大(提供:チューリッヒ工科大学/国立天文台、以下同)

この結果から、銀河が星形成を行った期間は10億年より短かったことがわかった。また、銀河の金属量や元素組成比は現在の楕円銀河とビッグバン40億年後の銀河とで変化がないことから、大質量楕円銀河はビッグバンの40億年後の状態から星形成活動を生じることなく現在に至ったことが明らかになった。

大質量楕円銀河の恒星の年齢(左)、金属量(中央)、アルファ元素と鉄の比(右)の赤方偏移進化
大質量楕円銀河の恒星の年齢(左)、金属量(中央)、アルファ元素と鉄の比(右)の赤方偏移進化。左図で色が塗られた領域は、大質量楕円銀河が現在 (赤方偏移0) から100億~110億年前に形成された後は星形成せずに加齢だけがあったと仮定したときの理論予測を示しており、観測データと一致していることがわかる。中央図と右図からは、現在からビッグバンの40億年後の宇宙まで、銀河の金属量や元素組成比に進化が見られなかったことがわかる。クリックで拡大

こうした大質量楕円銀河は、活発に星形成をしていた時代にはどのような銀河だったのだろうか。観測対象の銀河の年齢は10億年なので、その祖先はさらに10億年前の宇宙で星形成を行っている銀河ということになる。こうした祖先となる銀河の多くは1年あたり太陽の数百倍の質量に相当する星々を形成しているが、このペースで星形成が続くと現在の宇宙に存在しないほどの質量になってしまうと予想される。何らかの作用によって急激に星形成が停止し、その後は星形成が行われなかったのだろう。

今回の研究により、観測対象となった100億年前の銀河のさらに10億年前の誕生期まで遡る、110億年にわたる大質量銀河の形成の歴史が描き出された。「今後は、一つ一つの銀河の性質を詳しく調べたり、さらに遠方にこのような研究を拡張したりすることで、楕円銀河形成の詳細に迫りたいと考えています」(小野寺さん)。

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