太陽風の玉突き事故で起こった大規模磁気嵐

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今年3月17日に発生した大規模な磁気嵐は、太陽から噴き出したコロナ質量放出が地球へ到達するまでに後方から高速太陽風の追い風を受け、さらに前方に渋滞していた低速太陽風が巻き込まれて「玉突き事故」のような状況が起こったことが原因と明らかにされた。

【2015年7月17日 名古屋大学/国立極地研究所

今年3月17日、過去10年で最大規模の磁気嵐が発生し、北海道ではオーロラが11年ぶりに観測されて話題となった(参照:アストロアーツニュース「北海道で11年ぶりにオーロラを観測」)。

太陽で高速プラズマ雲の放出「コロナ質量放出(CME)」が起こると、数日後にそのCMEが地球に到達して磁気嵐(地磁気が一時的に弱まる現象)が発生することがある。その磁気嵐の規模が大きくなると、極域で見られるオーロラが活発になるだけでなく、普段オーロラが見られない低緯度の地域でもオーロラが見られることもある。しかし3月17日のCMEを起こした太陽フレアの規模は小さいものだったため、磁気嵐の規模が巨大化した原因の解明が待たれていた。

名古屋大学太陽地球環境研究所の塩田大幸(しおただいこう)さん、桂華邦裕(けいかくにひろ)さん、国立極地研究所の片岡龍峰(かたおかりゅうほう)さんらを中心とする研究グループは、探査機によって直接観測されたCMEの磁場、速度、密度、温度を詳しく調べた。その結果、このCMEは平均的なものと比べて密度が濃く、温度が高いという特徴を持っていることがわかった。

これは、CMEの後ろ側から追い風のように吹き付けていた高速太陽風によって、CMEの膨張が妨げられていたためだと考えられる。また、この日のCMEの前方も非常に密度が濃かったことこともわかった。渋滞していた低速太陽風が、追突によりさらに圧縮されていたためだと考えられる。

太陽風の「玉突き事故」の模式図
太陽風の「玉突き事故」(2015年3月17日、右)の模式図。玉突きにならなかった場合(2006年12月13日、左)と比べて、後方から高速風の追い風を受け、前方の渋滞した低速風を巻き込んでいる。クリックで拡大(提供:国立極地研究所、以下同)

磁気流体力学シミュレーションにより、CMEが太陽から地球まで伝搬する様子を再現してみたところ、高速と低速の太陽風に挟まれたCMEの立体的な全体像が明らかになった。観測された太陽風のデータをもとにしたモデル計算からは、玉突き事故のようにして全体的に太陽風の密度が濃くなったために磁気嵐の規模が約5割増強されたことが明らかになった。

シミュレーションによる太陽風スピードの赤道断面図と、南北断面図
磁気流体シミュレーションによる太陽風スピードの赤道断面図と、南北断面図の動画。中心が太陽、X=1のところにある白い点が地球で、色はスピードを、矢印は磁場の向きを表す。右図での南(下)のほうへ広く噴き出す高速風(赤い部分)の追い風を受けながら、地球の周りの低速風(青と水色の接触面)を押し潰していく様子がわかる。クリックで拡大

小さな太陽フレアでも大きな磁気嵐が起こるという今回の教訓は非常に重要だ。本研究によって、実際に磁気嵐が巨大化する具体的な仕組みも明らかになった。これまでのように、大きな太陽フレアの発生時に太陽面の観測からCMEの磁場のねじれを計算するだけでは磁気嵐の規模の予測には不十分であり、磁気流体力学シミュレーションによって高速風、低速風、CMEの全体像を把握し、それらのダイナミックな変化を正確に追跡することで大規模な磁気嵐を逃さずに予測することが可能になると期待されている。

大規模な磁気嵐は地上の送電設備や人工衛星へ障害を起こすなど我々の生活とも密接に関連する事象であり、本研究はそのメカニズムの解明や予報の改善に一歩迫った、有益な成果であるといえる。