史上最速レベルのコロナ質量放出が発生

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2012年8月16日 NASA

NASAの太陽観測衛星「STEREO」が先月、秒速2900km〜3500kmという史上最速レベルの速さで太陽から飛び出すコロナ質量放出(CME)をとらえた。


コロナ質量放出

太陽観測衛星「SOHO」がとらえたコロナ質量放出の瞬間。右側に見えるのが、観測史上最高速のCMEだ。STEREOがとらえた動画をリンク先で見ることができる。クリックで拡大(提供:ESA/NASA/SOHO)

このたび観測されたコロナ質量放出(CME)は、STEREOが2006年に観測を始めて以来、最速のものになりそうだ。このような稀な宇宙天気の急変は、研究者にとってはその原因と影響を調べる絶好のチャンスになるだろう。

「秒速2900km〜3500kmというスピードは、CMEとしては間違いなく観測史上屈指です。推定速度の上限である秒速3500kmなら、トップと言ってよいでしょう」(NASAゴダード宇宙飛行センターのAlex Young氏)。

「STEREO」ミッションは、地球とは異なった角度から太陽をとらえるために、特別な軌道を回る2機の観測衛星で構成されている。ゴダード宇宙飛行センター宇宙天気研究室のRebekah Evans氏によると、CMEはその速度でランク付けされ、今回の最速レベルのものはER、つまり非常にまれ(Extremely Rare)なものとして分類されるという。

「これほど高速なCMEはとても珍しく、宇宙天気の激しい変化を研究する見逃せない機会です。このような強力な爆発の原因をより深く理解し、宇宙天気の影響を予測する我々のモデルもさらに改良できると思います」(Evan氏)。

太陽から約1億4000万km離れた「STEREO-A」はCMEの直撃を受け、その速度を測定することができた。さらに約17時間後、CMEの勢いが秒速約1000kmに落ちほぼ消えたときの情報も得えている。

STEREOの測定によれば、このCMEは通常の約4倍もの強い磁場を持っていた。強力な磁場を伴うCMEが地球の近くを通ると、「地磁気嵐」と呼ばれる現象が起こる。地球の磁場が撹乱され、人工衛星にトラブルが発生する可能性が高まり、深刻な場合は地上の電気供給システムにも問題が発生する。

「我々は磁場をテスラという単位で測定しています。今回のCMEの場合、磁場の強さは約80ナノテスラでした。これは、「ハロウィーン嵐」と呼ばれる2003年10月の巨大地磁気嵐を起こしたCMEよりも強かったのです(ゴダード宇宙飛行センター宇宙天気研究室のAntti Pulkkinen氏)。

しかし1859年の「キャリントン・イベント」に比べればまだ弱い。記録史上最大の磁場嵐とされるこの事象の磁場は110ナノテスラにも達し、電報局で火災が発生したとか、新聞が読めるほど明るいオーロラが発生したなどのエピソードが残っている(参照:2009/6/18 「太陽活動、次のピークは2013年5月?」)

さらにSTEREOは、CMEの磁場の向きを検知することもできる。地球磁場と逆の、南向きの磁場は地磁気嵐を起こしやすいためこれは重要な情報だ。今回発生したCMEでは、南向きの磁場が40ナノテスラもの強力な磁気を数時間維持していた。

今回の事象は、太陽から高速陽子放出も引き起こした。CMEが始まってから1時間後、大量の荷電粒子がSTEREOにぶつかった。このような太陽からのエネルギー粒子が地球にたどり着いたのが「太陽放射嵐」と呼ばれるもので、航空機の通信などに使われる高周波数通信に障害を引き起こす。CMEと同様に、今回発生した太陽エネルギー粒子(SEP)事象も、STEREO観測史上最も強いものだった。CMEは地球からはあさっての方向に向かったが、SEPは弱まってはいたものの地球に向かってきた。研究者にとっては、どうしてこのような現象が宇宙空間の中で広がっていくことができるのかを研究する良い機会になった。

NASAの宇宙天気研究者たちは今回の太陽活動が発生する3週間前から、その発生元となった活動領域に注目していたとEvans氏は語る。

「そこはAR-1520と呼ばれる活動領域です。以前の観測で、太陽の右縁から見えなくなる直前、その場所から4回の高速CMEが発生しました。つまり、既に何回もXクラスのCMEが発生した場所だったのに、強度はさらに増加し続け、今回のような巨大爆発にいたったのです。これはとても興味深い研究対象です」(Evans氏)

STEREOは、太陽を常時観測している数々の衛星の1つだ。活発な太陽だけでなく、静かな太陽からも興味深いデータが常に得られている。太陽の11年周期の活動サイクルのうち、次の太陽極大期と目される2013年までに、様々な宇宙天気の変化が次々と起こると予想される。それらの研究から、太陽が太陽系全体に及ぼす影響についての理解が深まることが期待されている。