ガニメデの大気に水蒸気が存在する証拠を検出

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ハッブル宇宙望遠鏡の過去20年以上にわたる観測データから、木星の衛星ガニメデの大気に水蒸気が存在する証拠が初めて見つかった。

【2021年8月3日 NASA

1998年にハッブル宇宙望遠鏡(HST)の撮像分光カメラ「STIS」で、木星の衛星ガニメデの紫外線画像が初めて撮影された。この画像では、地球や他の惑星に見られるオーロラと同じような、荷電粒子の帯である「オーロラ帯」の姿がとらえられていて、ガニメデに弱い磁場が存在する証拠と考えられてきた。

紫外線画像は高いエネルギーに励起された酸素原子が出す2種類の紫外線(波長1356Åと1304Å)で撮影され、どちらの画像も、南北2本のオーロラ帯が写っているという大まかな特徴は似ていた。この紫外線は、ガニメデの大気に存在する酸素分子(O2)に電子が当たって2個の酸素原子(O)に分解され、この酸素原子から放射されたものだと当時は考えられた。また、1304Åの紫外線でのみ明るく写っている場所もところどころにあるが、これはもともと酸素原子が多く存在する場所で、この酸素原子に電子が当たって励起され、紫外線を放射したものだと推定された。

ガニメデの紫外線画像
1998年にHSTが初めて撮影したガニメデの紫外線画像。どちらの波長でも、南北の高緯度地域に紫外線を強く放射する領域が見られる。1304Åの紫外線でのみ明るい場所はもともと酸素原子が多い場所だと考えられてきた(提供:NASA, ESA, Lorenz Roth (KTH))

初撮影から20年が経った2018年に、スウェーデン王立工科大学(KTH)のLorenz Rothさんたちの研究チームは、NASAの木星探査機「ジュノー」のミッションをサポートする目的で、HSTの分光計「COS」で2018年に取得したデータと、STISが1998~2010年に取得したデータを使い、ガニメデの大気に含まれる酸素原子の量を調べる研究を行った。

すると、1998年当時の推定とは異なり、ガニメデの大気にはほとんど酸素原子が含まれていないことが明らかになった。つまり、1304Åの紫外線でのみ明るく写っている場所はもともと酸素原子が多い、という解釈は間違いだったことになる。

HSTが観測した紫外線は、水分子(H2O)に電子が衝突して生じる酸素原子からも放出される。そこで研究チームは、2種類の紫外線の明るさがガニメデの表面でどのように分布しているかを詳しく調べてみた。

その結果、1304Åの紫外線でのみ明るい場所は、ガニメデの表面で太陽光がよく当たる位置とよく相関していることがわかった。ガニメデの表面温度は太陽光の影響で一日の間に大きく変化し、太陽光が真上から当たる正午近くの赤道付近では、温度が高くなって表面の氷が昇華し、微量の水分子が放出されると考えられる。つまり、1304Åの紫外線でのみ明るい領域には水の分子が存在する可能性が示されたのだ。

「ガニメデの大気ではこれまで、酸素分子しか観測されていませんでした。酸素分子は荷電粒子が氷の表面を侵食することで作られます。今回私たちが検出した水分子は、氷が存在する領域から熱で水蒸気が逃げていく昇華によって生じるものです」(Rothさん)。

今回の成果は、2022年に打ち上げ予定のヨーロッパ宇宙機関の木星探査ミッション「JUICE(The Jupiter Icy moons Explorer:木星氷衛星探査機)」の探査計画を詰めていく上でも重要な情報となる。

今回の研究成果の紹介動画(提供:NASA's Goddard Space Flight Center)

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