月の裏側にも!アポロのデータから深発月震の震源を決定
【2015年4月28日 JAXA/ISAS】
月はアポロ月震観測((*1))により地球以外で唯一、地震活動のネットワーク観測が行われた天体で、1万2000件以上の月震(月の地震)が観測されている。観測データから月の内部構造に関する研究が進められ、厚さ約60kmの地殻、その内側には岩石でできた「マントル」と呼ばれる層、さらに内側には金属でできた核があると考えられている。
アポロ計画による月震の観測は1977年に終了したが、その後も計算機能力の向上や地震波解析技術の発展に伴って、新たな知見が得られている。しかし、既存の月震観測データが少ない観測点数であること、月の表側にのみ設置された観測機器による小さな観測ネットワークであることなどの問題がある。そこで、パリ地球物理研究所の川村太一さんと宇宙航空研究開発機構(JAXA)の田中智さんらの研究チームは、約40年前にアポロ17号によって設置された月面重力計を地震計として利用することにチャレンジした。
月震の震央分布と観測地点。△印はアポロ計画で月震計が設置された地点、大きい△印はアポロ17号の月面重力計が設置された地点、○印は震央で色は深さを表す。青枠○印は本研究で新たに明らかになった震央。月面画像は「かぐや」のデータを使用。クリックで拡大(提供:JAXA、以下同)
重力計のデータと他の月震計の観測結果との整合性がとれていることなどを確認したうえで震源位置を再決定したところ、過去の研究結果と一致した。さらに、震源が未定だった60件の深発月震(月の地下900km前後を震源とする月震)のデータを解析し、新たに5件の震源位置を決定することに成功、そのうちの1件は月の裏側で発生した深発月震であることもわかった。
これまで月の裏側における深発月震は8つしか特定されておらず、とても珍しい現象といえる。裏側で深発月震が少ない原因はよくわかっていないが、表側と裏側で深発月震の活動性が違うという可能性、もしくは月の内部に月震波の伝搬を阻害する層があるために表側の観測点に届かないという可能性などが指摘されている。
重力計で観測された月震波シグナルの波形。過去のデータでは震源が決まっていなかった深発月震の震源を決定できた
1: アポロ月震観測: アポロ12、14、15、16号には月震計が搭載され、1969年から1977年まで4点のネットワークで月震観測を行っていた。
〈参照〉
- JAXA/ISAS: 月の裏側の深発地震 ~40年間の眠りから覚めた月面重力計のデータ~
- Journal of Geophysical Research: Lunar Surface Gravimeter as a lunar seismometer: Investigation of a new source of seismic information on the Moon 論文
〈関連リンク〉
- JAXA/ISAS: http://www.isas.jaxa.jp/
- パリ地球物理研究所: http://www.iap.fr/
- NASA: http://www.nasa.gov/
- アストロアーツ
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