原始星の成長に欠かせないのは磁気的に駆動された円盤風
【2026年4月10日 アルマ望遠鏡】
原始星が形成されるとき、膨大な量のガスと塵の雲が自身の重力で収縮し、角運動量保存の法則により自転がどんどん速くなる。もしこの角運動量を取り除くメカニズムがなければ、遠心力により収縮が停止して物質が中心星に到達できず、星は成長できない。
円盤がどのようにして角運動量を失うのか。この長年の疑問を解明するため、韓国・ソウル国立大学のChul-Hwan Kimさん、Jeong-Eun Leeさんらの国際研究チームは、約1300光年離れた「オリオン座B分子雲」にある若い原始星「HPOS 358」近傍のガスをアルマ望遠鏡で追跡し、磁気的に駆動された円盤風が円盤の角運動量を抜き去っている明確な証拠を発見した。

過去の研究で取得されたオリオン座B分子雲の擬似カラー画像。一酸化炭素分子の分布を表し、青は12Cと16O、緑は13C、赤は18Oと異なる同位体に対応。右下に馬頭星雲が見える(提供:Jérôme Pety et al.)
まず、流出するガス(アウトフロー)が円盤の回転と同じ方向に回転していることから、回転円盤から直接放出されたガスが円盤風となって流れ出しているということが示された。
また、アウトフローが多層的な構造を持ち、円盤中心に近い位置から離れた位置に至るまで円盤風が吹きあがっていることを示唆する理論モデルとよく一致することも明らかになった。一酸化硫黄(SO)はアウトフローの中心軸付近に集中し、メタノール(CH3OH)は中間層、ホルムアルデヒド(H2CO)は外側に広がった層をとらえたと言える。

アルマ望遠鏡が観測した恒星HPOS 358の周りのガス分布と回転速度。青が手前方向、赤が奥方向への運動を示す。左端(一酸化炭素(13CO))で示される星の周囲の回転円盤と、その他3つの図(左からメタノール(CH3OH)、一酸化硫黄(SO)、ホルムアルデヒド(H2CO))で示されるアウトフローの回転方向が一致しているのがわかる(提供:Kim et al., ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

観測から想定される原始星HOPS 384周囲の構造の模式図。星周円盤と円盤から噴き出したガス風の層構造を表す。分子によってそれぞれ異なる空間分布が見られたことで、円盤風の構造と物理状態をうかがう重要な手がかりが得られた
さらにアウトフローの性質を調べるため、「磁気レバーアームパラメータ」と呼ばれる指標が分析された。回転する円盤に固定された磁力線は、回転レバーや「ぱちんこ」のように作用して、ガスを加速して外側に弾き飛ばす。このパラメータは、磁場が円盤の角運動量を抜き出す効率を定量的に表すものと言え、アウトフローの主因が磁場であれば、その値が1よりも大きくなるはずだ。
実際、HOPS 358で測定されたパラメータはおよそ2.3で、磁場がガスを放出する場合の閾値を十分超えていた。これにより、アウトフローが原始星を取り巻く磁場を含んだ降着円盤「磁気流体力学円盤」(以下「MHD円盤」)から吹く円盤風によって駆動されていることが強く示された。
また、円盤風は将来惑星が形成されるであろう領域(円盤半径10~18天文単位:15億~27億kmの領域)から吹きだしていることも示された。このことは、惑星形成円盤の物理的・科学的環境を形作る最初期の段階から、円盤風が重要な役割を果たしていることを示唆する。
以上のように、原始星周囲の円盤から角運動量を抜き取って物質降着を可能にしているのがMHD円盤風であり、それが星の成長や惑星形成の初期条件にまでかかわるような円盤進化に盛んに影響を及ぼしていることがわかった。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:原始星を取り巻く円盤から磁気的に噴き出す風を解明
- Nature Communications:Direct evidence of magnetized disk winds driving rotating outflows in protostar HOPS 358 論文
〈関連リンク〉
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