変光が止まったベテルギウス
【2023年11月15日 高橋進さん】
オリオン座のベテルギウスは以前は、0.0等から1.3等ほどを主に400日ほどの周期で変化する「半規則型変光星」とされていました。ところが2019年末から急激に減光し、2020年2月には1.6等にまで暗くなって「大減光」「2等星に陥落」などと言われました。
この減光の原因については、大黒点によるものであるとか、超新星爆発の前触れであるとか様々な説が出されましたが、最終的には400日周期の変動とおよそ6年の周期の変動が重なったことと、大量の塵が放出されたことによる減光だと考えられています。
大減光の後、ベテルギウスはおよそ200日の周期で光度変化を繰り返しながらじわじわと光度を増していきました。とくに今年4月には0.2等になり、オリオン座のリゲルと同じ明るさで輝きました。これほど明るくなるのは数十年に一度のことです。
この増光の傾向が続くならば、200日後にあたる11月にはリゲルを超えて0.1等にまで明るくなるのではという声も聞かれるようになりました。0.1等というとぎょしゃ座のカペラと同じ明るさで、100年に一度クラスの明るさです。ベテルギウスがこの後どのような光度変化を見せるのか注目が集まりました。
6月から8月にかけてはベテルギウスが太陽に近く観測できないので、これが明けた8月下旬から観測が始まりました。ところが、眼視観測では明るめの報告もあるのですが、暗めの報告もありました。20年以上にわたりベテルギウスの測光を続けていて最も正確と思われる大金要次郎さんの光電測光によるV等級の観測では、9月から11月にかけては0.5等の明るさで推移し、ほとんど光度変化が見られませんでした。
2020年以降のベテルギウスの光度曲線。画像クリックで表示拡大(VSOLJのデータから高橋さん作成)
はたしてベテルギウスで何が起こっているのでしょうか。おそらくまたベテルギウスから放出された塵が恒星本体からの光を遮っている可能性が高いように思われますが、正確なことはわかりません。この後もこの光度変化が止まった状態が続くのか、それともこれまでのように周期的な変光に戻るのか、非常に興味深いところです。明るい星ですので天体望遠鏡も双眼鏡も必要ありません。肉眼で十分です。この冬のベテルギウスはどんな明るさで見えるのか、ぜひ多くの皆さんの観測をお願いします。
ベテルギウス周辺の星の明るさ。数字は恒星の等級(01=0.1等)を表す(「ステラナビゲータ」で星図作成、比較星等級はヒッパルコス星表による)
〈関連リンク〉
- 日本変光星研究会
- VSOLJ Variable Star Bulletin
- アメリカ変光星観測者協会
- 日本天文学会:天文月報 2023年11月号 大金要次郎さん寄稿「〈2022年度日本天文学会天文功労賞〉ベテルギウスの5色測光を続けて」
- アストロアーツ:
- 星ナビ.com:2023年12月号 Observer's NAVI「明るいベテルギウスを楽しもう」
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