リュウグウ試料からアミノ酸などを検出

このエントリーをはてなブックマークに追加
「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料の分析で、23種類のアミノ酸や多数の有機物が検出された。試料の性質はCIコンドライトという隕石にきわめて似ている。

【2022年6月16日 JAXA (1)(2)

2020年12月に「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの試料(約5.4g)は、主な粒子とそれ以外の粉体に分けられ、約半年に及ぶ「フェーズ1(第1段階)キュレーション」という作業で、最初に分配対象となる粒子を1個ずつ拾い上げてサイズや重量などを計測し、画像とともにカタログ化された。

このカタログに基づいて、昨年6月には「フェーズ2(第2段階)キュレーション」を行う国内の2チームに全体の4%(約0.2g)の試料が、また初期の科学分析を行う国内6チームに全体の6%(約0.3g)の試料が分配され、詳しい分析が始まっている(参照:「リュウグウ試料の分析第2段階開始、大量の水や有機物を確認」)。

今回、この国内8チームのうち2チームの研究成果が論文として相次いで発表された。

リュウグウ試料から23種類のアミノ酸を検出

フェーズ2キュレーションを担当する2チームのうち、岡山大学惑星物質研究所の中村栄三さんを中心とする研究チームは、分配された16個のリュウグウ粒子を同研究所の地球惑星物質総合解析システム(CASTEM)で分析し、鉱物組成や元素組成、同位体比、年代、含まれる有機物の成分など、様々な情報を得ることに成功した。

分析の結果、リュウグウ試料から23種類のアミノ酸や尿素、「含窒素複素環式化合物」と呼ばれる複雑な構造を持つ窒素化合物などが検出された。アミノ酸の種類ごとの比率は、比較のために同じ方法で分析されたCIコンドライト(最も始原的とされる炭素質隕石)である「オルゲイユ隕石」のアミノ酸の比率とほぼ同じだったが、チロシンというアミノ酸だけはリュウグウ試料からは検出されなかった。

リュウグウの試料は隕石とは違い、採取から地球到着、キュレーション、分配まで、真空環境の下で保管されており、地球環境で汚染されていない。そのため、今回検出されたアミノ酸などの物質は、地球由来のものが混入したのではなく、太陽系内の地球以外の場所にもともとあったものだと確実に言える。これは、地球の生命を形づくる基本的な物質が地球外からもたらされたという仮説を裏付ける重要な証拠だ。

また、リュウグウ試料を構成する鉱物は、約50%が「含水層状ケイ酸塩」からなる細かい鉱物粒子で、その中に約9%の無機鉱物や有機物からなる大きな粒子が点在し、残りの41%は「すき間」であることがわかった。

走査電子顕微鏡画像
リュウグウ試料の走査電子顕微鏡画像の例。様々なサイズの多面体の形をした磁鉄鉱(Magnetite)の粒子がたくさん存在し、その間を層状ケイ酸塩(Phyllosilicate)が埋めている。リュウグウの母天体内部の、液体の水と固体物質が共存する領域でこうした鉱物ができたと考えられる。画像下のスケール(白い帯)が1μmを表す(提供:Nakamura et al. (2022))

この結果と、試料が過去に経験した温度、結晶が固まった年代といった情報を組み合わせることで、リュウグウは以下のような形成の歴史を経ていると研究チームは推定している。

  • リュウグウのもととなった母天体は、太陽系の外縁部で星間物質と原始太陽系星雲の物質が集積してできた直径数十kmの氷天体だった
  • 母天体の内部が、アルミニウム26という放射性同位元素の崩壊熱で融け、液体の水の層ができる
  • 液体の水の層が再び凍結していく過程で、含水層状ケイ酸塩や無機鉱物・有機物ができた。この時期は太陽系形成から約260万年後で、温度は0~30℃だったとみられる
  • 崩壊熱が減ると母天体は完全に凍り、天体衝突によって直径数kmの破片になった
  • この破片が彗星核となって太陽系の内側へと移動し、水分やガスが彗星活動で噴き出したり表面に再集積したりすることで、がれき状のリュウグウになった。同時に直径が小さくなって自転が加速し、「そろばん玉」のような形になった

リュウグウの形成史
研究チームが推定する、リュウグウの形成と進化の歴史。太陽系の外縁部で形成されたリュウグウの母天体が天体衝突で破片状の彗星核となり、これが太陽系の内側へ移動することで揮発性物質を失ってリュウグウとなった。画像クリックで表示拡大(提供:Nakamura et al. (2022))

元素組成はCIコンドライトに非常によく似ている

リュウグウ試料の初期分析を行う6チームのうち、北海道大学の圦本尚義さんを中心とする「化学分析」チームは、フェーズ2キュレーションの岡山大学チームとは独立に、リュウグウ試料の元素組成や同位体組成、年代・形成温度の分析を行った。

化学分析チームは試料に含まれる66種類の元素の含有率を詳細に測定し、これらの元素の比率がCIコンドライトときわめてよく一致することを確認した。タンタルのみが非常に多く検出されたが、これは「はやぶさ2」のタッチダウンで発射された弾丸の素材が検出されたものとみられる。

元素存在度
リュウグウ試料の元素存在度。ピンクは第1回タッチダウン、黒・オレンジ・赤は第2回タッチダウンで得られた試料を様々な手法で分析した結果を表す。横軸が元素の種類で、縦軸がCIコンドライトでの存在度を1とした存在量。タンタルを除く全ての元素がほぼ1の付近に並び、CIコンドライトとよく似ていることを示している。画像クリックで表示拡大(提供:Yokoyama et al. (2022))

また、走査型電子顕微鏡による鉱物分析から、リュウグウ試料は層状ケイ酸塩が主成分で、その中に炭酸塩である苦灰石やブロイネル石、磁硫鉄鉱、磁鉄鉱などの粒子が点在していることがわかった。これらの鉱物はリュウグウの母天体にもともとあった鉱物が、水の作用によって分解(水質変成)されたあとにできた二次鉱物だ。この特徴もCIコンドライトに似ている。

化学分析チームでは、この水質変成が起こった年代を太陽系形成から約500万年後、当時の温度を約40℃と推定している。

また、層状ケイ酸塩を形づくる層状の結晶の間に含まれる水が、リュウグウ試料では大きく失われていることもわかった。これはCIコンドライトとはかなり違う点だ。このことから、リュウグウ試料は太陽系で最も始原的な物質と考えられてきたCIコンドライトよりもさらに始原的な特徴を保っている物質であり、これまでに地球で発見されたCIコンドライトの水分のうち、約半分は地球の水蒸気などによる汚染なのではないか、と化学分析チームでは推定している。この結果は、地球で発見される隕石が宇宙にいたころの成分や状態からどの程度変化するかを知る上で、非常に重要な知見だ。

今後、残る6チームの分析結果についても、論文が公表されるごとに順次アナウンスされる予定となっている。

〈参照〉

〈関連リンク〉

関連記事