まもなく極大を迎える長周期変光星うさぎ座R
【2022年1月17日 高橋進さん】
うさぎ座Rは1845年にイギリスの天文学者ハインドによって発見された星で、「黒い視野に落とされた一滴の血のよう(like a drop of blood on a black field)」と表現されたことから「ハインドのクリムゾンスター」の愛称でも呼ばれています。これはうさぎ座Rが炭素星と呼ばれるタイプの星であることが理由です。恒星の内部から表面に運ばれた炭素が青い光を吸収するため、天体望遠鏡で見ると本当にクリムゾン(深紅)の星の色が楽しめます。
うさぎ座Rが変光星であることを発見したのはドイツのシュミットで、1852年から1855年にかけての観測によるものです。現在ではミラ型変光星に分類されていて、およそ430日ほどの周期で5.5等から12等ほどを変光します。ただし実際には、周期は短いときは410日程度、長いときは460日ほどにもなります。また変光範囲についてもおよそ40年ほどの周期でのうねりがあり、明るい時期は6等から10等ほどを変光しますが、暗い時期は変光範囲が9等から12等になることもあります。最近は中間期にあたり、6.5等から9.5等くらいを変光しています。
2022年1月時点でうさぎ座Rは7等台をゆっくりと増光していますので、小型望遠鏡や双眼鏡でも観測が可能な明るさになってきています。極大がいつになるかについては研究者の中でも意見が分かれますが、筆者は2月下旬に6等台後半の極大等級になるのではないかと推測しています。ただこればかりは実際に観測してみないとわかりませんので、ぜひ多くの皆さんの観測をお願いしたいところです。
近年のうさぎ座Rの光度。画像クリックで表示拡大(VSOLJメーリングリストのデータから高橋さん作成)
変光星の観測では周囲の星の明るさと変光星の明るさを比較して目測しますが、うさぎ座Rは色が極端に赤いので目測には注意が必要です。赤い星はじっと長時間見続けているとだんだん明るく感じてくるので、目測はなるべく短時間で行う必要があります。また、赤い星は光害などで空が明るいところでは明るく見えてしまい、逆に空の暗いところでは意外と暗く見えます。さらに、赤い星を明るく見積もる観測者もいれば、反対に暗く見積もる人もいます。こうした事由により、赤い星の光度曲線はどうしてもばらつきが大きなものになります。ただ、こうしたことをあまり気にしていては観測ができません。ほかの人の等級はあまり気にせずに、自分の等級はこうだと割り切って観測を続けていく勇気も必要です。
このように赤い星の明るさの目測は難しいところもありますが、星空の中で深紅に光る様子は本当に魅力的です。ぜひこの機会に、赤い星の魅力をお楽しみください。なお、うさぎ座Rを導入しようとうさぎ座の耳からたどっていくと、これもひときわ赤い変光星であるうさぎ座RXも目につきます。こちらは5等から7等くらいをおよそ200日前後で変光する半規則型変光星です。併せてお楽しみください。
うさぎ座R、RX周辺の星図。数字は恒星の等級(60=6.0等)を表す(「ステラナビゲータ」で星図作成)
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