初期宇宙でもう星の材料を使い切った銀河たち

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多くの銀河で星形成が活発だった約110億年前の宇宙に、星の材料となる冷たい水素ガスが枯渇して星が生まれなくなっている銀河が6つ見つかった。

【2021年10月6日 アルマ望遠鏡

宇宙の歴史の初期に生まれた大質量銀河には、星の材料となる冷たい水素ガスが大量に含まれていたはずだと考えられる。しかし、ビッグバンから30億年(現在から約110億年前)という、星の誕生が最も盛んであったはずの時代にも、星形成が止まってしまっている銀河が見つかっている。そのうちの6つを調べたところ、冷たい水素ガスがほぼ枯渇した「ガス欠」状態にあることがわかった。

銀河団MACSJ 0138
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された銀河団「MACSJ 0138」(くじら座)の画像に、アルマ望遠鏡による電波観測データを合成した画像。拡大部分のオレンジや赤の明るい点は、電波観測で明らかになった冷たい塵の広がりを示す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO), STScI, K. Whitaker et al.)

研究対象となった6つの銀河は、米・マサチューセッツ大学アマースト校のKatherine E. Whitakerさんが率いる、初期宇宙にある星形成の停止した銀河を調べるプロジェクト「REQUIEM(REsolving QUIEscent Magnified galaxies at high redshift)」で観測されたものだ。時間をさかのぼって昔の銀河を観測するということは、それだけ遠い天体を観測することを意味するが、新しい星の生まれない銀河は暗いため、そのままでは詳細に調べることは難しい。

そこで、REQUIEMでは重力レンズによって拡大された銀河を狙い、高い解像度を実現している。

観測したい銀河と私たちとの間に別の銀河があると、手前の銀河の重力が光をレンズのように曲げ、観測対象の銀河の像を歪ませながらも大きく明るくしてくれる場合がある。REQUIEMではこのような重力レンズ効果を受けている初期宇宙の銀河をハッブル宇宙望遠鏡で観測して星の分布を調べ、アルマ望遠鏡で銀河の塵が放つミリ波をとらえた。銀河に含まれる塵と冷たいガスの量には相関関係があるので、アルマ望遠鏡の観測から星の材料がどれだけ残っているかが推測できる。

REQUIEMで観測した6つの銀河のうち5つは極端に星形成率が低く、残る1つにも急速に生産ペースが落ちている兆候があった。銀河内に材料が残っていても、それが何らかの原因で星になるのを阻害されている可能性も考えられる。しかし、塵の観測データから推測される冷たい水素ガスの量はごくわずかで、材料そのものがなくなっているようだ。

「なぜこのようなことが起こるのかはまだわかっていませんが、考えられるのは、外部からのガスの供給が断たれたか、あるいは、超大質量ブラックホールが膨大なエネルギーを注入して銀河内のガスを高温に保っているかのどちらかでしょう。これは銀河が燃料タンクを補充することができず、星形成のエンジンを再起動することができないことを意味しています」(米・アリゾナ大学 Christina Williamsさん)。

「大質量銀河がなぜこれほど宇宙初期に形成されたのか、また大量の冷たいガスが容易に手に入ったのに、なぜ星の形成を止めてしまったのかについては、まだ多くのことがわかっていません。この巨大な宇宙の怪物たちが約10億年の間に1000億個の星を形成した後、突然星の形成を停止したという事実だけでも、私たちにとってはぜひとも解明したい謎です。REQUIEMは、その最初の手がかりを提供してくれました」(Whitakerさん)。