白色矮星から示された宇宙の炭素の起源
【2020年7月13日 カリフォルニア大学サンタクルーズ校】
宇宙に存在する全ての炭素原子は、恒星内の核融合反応によって作られたものだが、その炭素が宇宙空間にまき散らされたプロセスは恒星の質量によって異なる。恒星の約90%は高密度天体である白色矮星を残して一生を終えるが、その際に重元素を豊富に含んだ恒星風を数回吐き出して、自らの灰を周囲の宇宙空間へとばら撒く。この恒星風に、進化の最終段階に星の内部で作られた炭素も含まれている。一方、質量が大きい恒星は超新星爆発によって重元素をまき散らすが、天の川銀河ではどちらが主な炭素の供給源なのかについては議論が続いている。
2018年に伊・パドヴァ大学のPaola Marigoさんたちの国際研究チームは、米・ハワイのケック天文台で天の川銀河内の散開星団を観測し、星団に含まれる白色矮星の分析を行った。それぞれの散開星団は1つの巨大分子雲から形成された星々で構成されているので、星団内の星はどれも同じ年齢だという前提で恒星の進化を考えることができる。「スペクトルの分析により、白色矮星の質量を測定することができます。さらに恒星進化の理論を用いて、白色矮星の前駆星(寿命を終える前の恒星)までさかのぼって、誕生時の質量を求めることができました」(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校 Enrico Ramirez-Ruizさん)。
カシオペヤ座の方向約8000光年の距離に位置する散開星団「NGC 7789」。同星団内には異常に質量の大きな白色矮星が数個発見され、今回の研究で分析された(撮影:ささみさん。画像クリックで天体写真ギャラリーのページへ)
一般に、恒星が誕生したときの初期質量が大きいほど、最期に残る白色矮星の質量も大きいと考えられてきた。このことは観測と理論の両面から支持されており、恒星進化に関する基本原則とされている。しかし、細部にわたるまで検証が終わったわけではない。観測チームは、従来の予測と比べると初期質量の割に重すぎる白色矮星を見つけた。これを元に恒星の初期質量と白色矮星の最終質量の関係をグラフに描こうとすると、まっすぐな線とはならずに極端な折れ曲がりが現れる。
恒星の初期質量(横軸)と白色矮星の質量(縦軸)の関係。単位は太陽質量。誤差棒付きの点は実際に観測された白色矮星のデータ。点線のような単純な比例関係では説明できず、黒い実線で示したように1.8太陽質量前後で大きく折れ曲がるグラフとなる(出典:Marigo et al. 2020)
詳しい恒星の進化モデルからは、炭素の豊富な外層の引きはがしがじゅうぶんにゆっくり進めば、将来白色矮星となる星の中心核が目に見えて大きく成長できることが示された。「初期質量と最終質量の関係に見られる折れ曲がりは、天の川銀河内の低質量星による炭素の生成を示しているのだと解釈しています」(Marigoさん)。
この折れ曲がり付近の質量の星を分析した結果から、研究チームでは初期質量が太陽の2倍以上の恒星は天の川銀河に炭素を供給する一方、1.5倍以下だとほとんど寄与しないと結論づけた。言い変えれば、太陽質量の1.5倍という値は、星が一生の最期に炭素を多く含む灰を宇宙にばら撒く下限質量だということである。炭素という地球上の生命に必須の元素が、天の川銀河内の恒星によっていつどのように形成されたを考える上で重要な手がかりとなる研究成果だ。
「今回の研究における最もエキサイティングな側面の一つは、既知の白色矮星の年齢に影響を与える点にあります。これは天の川銀河の形成の歴史を理解するために必須の情報です。超新星の質量の下限も恒星の初期質量と最終質量の関係によって定まりますので、宇宙の性質を理解するためにとても重要です」(英・ウォーリック大学 Pier-Emmanuel Tremblayさん)。
〈参照〉
- UC Santa Cruz:White dwarfs reveal new insights into the origin of carbon in the universe
- Nature Astronomy:Carbon star formation as seen through the non-monotonic initial-final mass relation 論文
〈関連リンク〉
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