最大級の電波画像が明らかにする天の川中心部の化学組成

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天の川銀河の中心に存在する、高密度ガスとダストからなる「中心分子雲帯」の最大級の電波画像が作成された。分子ガスの複雑な構造や化学組成を見てとることができる。

【2026年3月16日 アルマ望遠鏡

天の川銀河の中心部には、高密度のガスとダストの雲が集まっている「中心分子雲帯」(CMZ; Central Molecular Zone)が存在する。この領域は星形成が活発で、ここで生まれた大質量星が超新星爆発を起こすため、天の川銀河の中でもとくにエネルギーが高い特殊な環境となっている。ほかの銀河にもCMZはあるが、星形成活動を詳しく研究できるのは、私たちから最も近く観測しやすい天の川銀河のCMZだけだ。

アルマ望遠鏡を用いて天の川銀河のCMZを調べる大規模観測プログラム「アルマCMZ探査サーベイ(ACES; ALMA CMZ Exploration Survey)」では、銀河中心における星形成をはじめ、銀河へのフィードバック現象が起こる場所や、星形成の激しさやタイムスケールがどのようなプロセスによって決まるのかを解明することを目的とした観測研究を行っている。このACESでは、銀河中心領域で星形成を起こしている可能性のある全てのガス雲の性質を調べるため、恒星の卵である原始星コアのスケールである0.1光年から最大300光年スケールまでの空間にわたって、毎秒約4kmというきわめて高い速度分解能でガスの運動を測定する。

ACESは、他の観測装置では数年間を要するようなサーベイ観測をわずか150時間程で達成した。この観測で得られた電波画像のカバー領域は満月3つ分に相当し、アルマ望遠鏡によるものとしては過去最大である。実際の広がりとしては650光年以上に相当し、ガスの分布が過去にない精細なスケールで描き出された。「このような高分解能かつ大規模なモザイク観測は、アルマ望遠鏡以外の電波干渉計では、現実的な時間では、ほぼ実現不可能なものと言えるでしょう」(国立天文台 Hsieh Pei-Yingさん)。

ACESの観測領域
(上)(赤)ACESの観測領域、(オレンジ)ALMAのバンド3受信機が過去に観測した領域、(マゼンタとシアン)それぞれ別のプロジェクトで観測された領域。(下)45枚の画像をモザイク合成し、CMZ全域をカバーする最大級の電波画像が作られた(提供:S.N. Longmore et al.

広い周波数帯域を持つアルマ望遠鏡は、数多くのスペクトル線で同時に電波画像を取得でき、星形成の材料となる低温の分子ガスが放つ電波を効率よく観測できる。ACESでは、ごく単純な一酸化ケイ素から、メタノールやアセトン、エタノールといった複雑な有機分子まで、数十種類の分子が検出された。天の川銀河中心部の星間物質が複雑な化学組成を持つことを示す結果だ。

中心分子雲帯
(上)天の川銀河の中心分子雲帯の位置。(下)天の川銀河の中心分子雲帯。一酸化硫黄など5種類の分子の分布を合成した擬似カラー画像(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Longmore et al., Stars in inset: ESO/D. Minniti et al., Milky Way: ESO/S. Guisard)

鮮明な画像からは、数十光年にわたりフィラメント状に伸びる大きな構造に沿って低温の分子ガスが分子雲の塊へ流れ込んでいる様子や、生まれたての個々の星を包むガス雲など、幅広い空間スケールにおける分子ガスの構造も浮かび上がった。「空間構造を高解像度で観測すると、物理的・化学的な環境の情報も得られます。銀河中心に存在する超大質量ブラックホールいて座A*の活動史や、CMZでの爆発的な星形成活動、それらが星間ガスの循環に影響を与えるフィードバック過程を解き明かすために類例のない好機です」(Hsiehさん)。

今回の成果や今後の研究によって、CMZにおける星の誕生や、周囲の環境へのフィードバックについての知見が深まり、銀河がどのように成長、進化してきたかについての理解が進むことが期待される。

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