中性子星の衝突で作られたストロンチウムを初検出

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2017年に観測された、中性子星同士の合体に伴って発生したキロノバと呼ばれる現象のデータの再分析から、この衝突で生成されたストロンチウムが初めて検出された。中性子星の衝突と重元素生成プロセスとを結び付ける重要な成果である。

【2019年10月29日 ヨーロッパ南天天文台

2017年8月、史上5例目の重力波信号「GW170817」が検出された。うみへび座の方向1億3800万光年彼方の銀河NGC 4993から発せられたGW170817は、中性子星同士の合体で発生した初の重力波検出であることが判明し、複数の望遠鏡による多波長でのモニタリング観測が行われた。このとき初めて確認されたのが、中性子星合体に伴う電磁波放射現象「キロノバ」だ。

キロノバは、中性子星合体による「rプロセス(r過程)」によって作られた元素が放射性崩壊を起こし、そのエネルギーが電磁波となって放射される現象である。キロノバの観測から元素合成を検証することができると予測されていたが、観測されたスペクトルの初期分析では、個々の元素の特定には至っていなかった。

デンマーク・コペンハーゲン大学のDarach Watsonさんたちの研究チームが、当時観測されたスペクトルをあらためて分析したところ、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTに搭載された分光観測装置X-Shooterが取得した、紫外線から近赤外線に至る一連のスペクトルから、重元素の一つであるストロンチウムの存在が確認できた。ストロンチウムは天然の鉱物中に存在し、塩化ストロンチウムは花火の赤色を出すのに使われるなど地球上ではありふれた物質だ。今回、宇宙空間での初検出により、中性子星同士の合体から重元素が作られることが初めて示された。

2017年8月17日に重力波信号が検出された後の12日間にX-Shooterが取得したキロノバのふるまいの変化を示すスペクトルのアニメーション動画。初めのうちは短波長(左)が強い=非常に青いキロノバが、日が経つにつれて赤く暗くなっていく様子がわかる(縦軸:明るさ、横軸:波長)(提供:ESO/E. Pian et al./S. Smartt & ePESSTO/L. Calçada)

「主系列星や超新星爆発、年老いた星の外層で起こる元素生成プロセスはわかっていましたが、rプロセスによる重元素の生成がどこでどのように起こるのかは知られていませんでした」(Watsonさん)。

rプロセスでは、原子の核がすばやく中性子を捕獲するという、重元素の形成を可能にするプロセスが起こる。多くの元素は星の中心核で作られるが、ストロンチウムなどの鉄より重い元素の生成には、より高温の環境と多数の自由中性子が必要になる。rプロセスが自然に起こるのは、原子が膨大な数の中性子から衝突を受ける極限的な環境下に限られる。

ストロンチウムが生成される様子の概念図
ストロンチウムが生成される様子の概念図(提供:ESO/L. Calçada/M. Kornmesser)

初観測されたばかりの現象であるキロノバはまだわかっていないことが多く、またX-shooterがとらえたスペクトルの複雑さゆえに、個別の元素の特定までには時間がかかった。「現象発生直後からストロンチウムが見つかるだろうと考えていましたが、重元素のスペクトルがどのように現れるかはよくわかっておらず、実際に検出するまでには困難を極めました」(コペンハーゲン大学 Jonatan Selsingさん)。

「今回初めて、中性子捕獲を通じて新たに生成された物質と中性子星同士の合体を直接結びつけることができました。中性子星が中性子で構成されていることを確認でき、それが長年議論されてきたrプロセスによる重元素の生成プロセスとつながったのです」(独・マックスプランク天文学研究所 Camilla Juul Hansenさん)。

研究成果の紹介動画(提供:ESO/L. Calçada)