すばる望遠鏡、遠方の超新星を大量発見
【2019年6月4日 Kavli IPMU/すばる望遠鏡】
大質量星は一生の最期に大爆発を起こし、超新星として明るく輝く。いくつかのタイプに分かれる超新星のうち、とくにIa型と呼ばれるものは絶対的な明るさがほぼ一定と考えられていて、見かけの明るさと比較することでその超新星までの距離を測定することができる。宇宙が加速膨張していることは、こうしたIa型超新星の観測から見出されたものだ。
また近年では、Ia型超新星よりも5~10倍も明るい「超高輝度超新星」と呼ばれる特殊な超新星も次々と発見されている。超高輝度超新星は非常に遠方のものまで観測できるので、宇宙初期にできた大質量星の性質を知るのに重要な手がかりになるとされている。
これらの超新星を効率よく発見し、明るさの変化を測定するためには、空の広い領域を長期間にわたって繰り返し観測する必要がある。すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「HSC(Hyper Suprime-Cam)」は、大集光力と高解像度を活かして遠くの暗い天体までとらえることができ、さらに満月9個分に相当する広い視野を一度に観測できるので、このような超新星研究にも非常に適している。
東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の安田直樹さんたちの国際研究チームは、HSCを使った大規模なサーベイ観測「大規模戦略枠観測プログラム」の一部として、ろくぶんぎ座方向にあるCOSMOS領域と呼ばれる領域を半年間にわたって繰り返し観測した。
この観測データをもとに、機械学習などの手法によって超新星を探し出したところ、約1800個もの超新星が発見された。
分光データから、このうち約400個がIa型超新星らしいことが判明し、そのなかで58個は約80億光年(赤方偏移が1以上)より遠くにあることが明らかになった。従来、これほど遠くのIa型超新星は、主にハッブル宇宙望遠鏡が過去10年間に実行した観測で発見された50個弱しか知られておらず、HSCはわずか半年でその数を超える遠方のIa型超新星を発見したということになる。
また、赤方偏移が2前後より大きい、約100億光年よりも遠方に存在する超高輝度超新星も5個発見された。このデータは同時代における超高輝度超新星の出現頻度の指標とすることができる。
これら遠方のIa型超新星のデータから宇宙の加速膨張がより正確に調べられ、加速膨張を引き起こしているダークエネルギーが時間とともにどのように変化しているかの研究が進むことが期待される。「HSCはダークマターの3次元分布の観測や原始ブラックホールの観測などで大きな成果を挙げていますが、遠方超新星の探査でも非常に高い能力を有していることが確認されました。今回得られたデータによって明らかにされる宇宙の姿を見るのが楽しみです」(安田さん)。
〈参照〉
- 東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU):すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam で遠方超新星を多数発見!
- すばる望遠鏡:遠方にある超新星の大量発見で宇宙膨張の謎に迫る
- PASJ:The Hyper Suprime-Cam SSP Transient Survey in COSMOS:Overview 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/26 地上燃焼の理論でIa型超新星の爆発モデルの検証に成功
- 2024/09/13 板垣さん、アンドロメダ座の銀河に超新星を発見、今年4個目
- 2024/07/12 現代に再び目覚めた、『吾妻鏡』の超新星残骸
- 2024/03/28 板垣さん、今年3個目の超新星をかみのけ座の銀河に発見
- 2024/03/18 ハッブル定数の食い違い、JWSTの観測でも裏付けられる
- 2024/01/24 2023年度日本天文学会各賞の受賞者発表 板垣さん、西村さんら
- 2024/01/22 大越さん、ヘルクレス座の銀河に初めて超新星発見
- 2024/01/15 【使いこなし講座】あなたの知らないステラナビゲータ~明るさが変わる星~
- 2024/01/15 板垣さん、今年2個目の超新星をきりん座の銀河に発見
- 2024/01/09 板垣さん、おとめ座の銀河に超新星発見
- 2023/12/15 西村さんが初の超新星発見、板垣さんは通算176個目の発見
- 2023/11/16 板垣さん、今年5個目の超新星を発見
- 2023/11/01 板垣さん、前回から5日後に今年4個目の超新星を発見
- 2023/10/30 板垣さん、今年3個目の超新星を発見
- 2023/08/23 明るい重力崩壊型超新星の周りは、元素も豊富か
- 2023/05/22 Ia型超新星からの電波を初検出
- 2023/05/22 板垣さん、回転花火銀河に明るい超新星を発見
- 2023/05/18 時間差で現れた超新星の重力レンズ像でハッブル定数を測定
- 2023/03/06 超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋
- 2023/01/30 2022年度日本天文学会各賞の受賞者発表 板垣さん、山本さんら