巨大原始星の周りに一酸化アルミニウムを発見
【2019年5月8日 東京大学大学院理学系研究科・理学部/アルマ望遠鏡】
恒星がどのように誕生し、その周囲に惑星がどのように作られるかという問題は、太陽系や地球、生命の誕生と進化にもつながる重要なテーマであり、生まれたての恒星や惑星を観測したり、小惑星から持ち帰られたサンプルを分析したりして研究が進められている。
東京大学および宇宙航空研究開発機構の橘省吾さんたちの研究グループは、1400光年彼方のオリオン座大星雲の中に位置する原始星「オリオンKL電波源I」のアルマ望遠鏡による観測データを解析し、そこに含まれる物質とその分布を調べた。オリオンKL電波源Iは太陽の数倍以上の質量を持つとみられる原始星で、周囲の原始星円盤から回転しながら吹き出すガスの流れ(アウトフロー)が存在する。
データ解析の結果、アウトフローの中に一酸化アルミニウム分子が存在することが示され、分子の空間分布も明らかになった。一酸化アルミニウム分子が進化末期の年老いた恒星から吹き出すガス中に存在することはこれまで知られていたが、誕生直後の若い原始星の周囲に存在するのか、存在するとしてどのように分布しているのかは不明だった。
アルマ望遠鏡が観測した、オリオンKL電波源I周囲の一酸化アルミニウム分子の分布。図の中心から左上、右下へと羽を広げた蝶のように分子が分布している。楕円状の等高線は塵が放つ電波の分布。アウトフローは図の左上と右下方向に広範囲に広がっている。図左下の白丸は干渉計の合成ビームのサイズを示す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tachibana et al.)
さらに、一酸化アルミニウム分子の分布が、アウトフローが吹き出す根元付近に限られていることも明らかになった。同じくアウトフローに見つかる一酸化ケイ素分子などの分布に比べて、一酸化アルミニウム分子の分布が極めて局所的なのは、この分子の揮発性が低いためと考えられる。高温のガスがアウトフローとして広がる過程で冷却されると、ガス中の一酸化アルミニウム分子がダストとして凝縮し、ガスから取り去られて残った可能性が高い。
太陽系で最初に作られた固体物質はアルミニウムやカルシウムなど揮発性の低い元素に濃集した鉱物からできていることが隕石の研究から知られている。これらは惑星を作る材料となった物質だが、その鉱物がどのような環境でどうやって作られたのかは充分には理解されていない。原始星の周囲で一酸化アルミニウム分子がダストとして凝縮する可能性を示した本研究の成果は、原始星周囲での惑星材料の進化の一般的な理解を進めるとともに、太陽系で惑星の材料が作られて惑星へと進化した過程を理解するための手がかりとなると期待される。
くわえて、様々な質量の原始星周囲のガスを観測して明らかになる惑星材料に関する知見と、隕石や探査機が持ち帰ったサンプルからわかる太陽系に関する知見とを比較することで、太陽系の形成・進化過程が天の川銀河内の他の惑星系と似ているかどうかの議論もできるようになると期待される。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科・理学部:巨大原始星の周りにアルミニウムを含む分子を発見 - 惑星材料の起源の理解へ
- The Astrophysical Journal Letters:Spatial distribution of AlO in a high mass protostar candidate Orion Source I 論文
〈関連リンク〉
- アルマ望遠鏡
- アストロアーツ:
- メシエ天体ガイド:M42 オリオン座大星雲
- 天体写真ギャラリー:M42 オリオン座大星雲
関連記事
- 2021/04/02 天の川銀河中心部の喧噪から、赤ちゃん星の産声
- 2021/03/26 赤ちゃん星を包む惑星の材料は個性豊か
- 2021/03/02 重い赤ちゃん星の周りで作られる炭素の鎖
- 2021/03/02 公式ブログ:実録!ベランダ撮影ふたたび ~オリオン大星雲~
- 2021/02/16 アルマ望遠鏡、赤ちゃん星から吹く風をとらえる
- 2021/01/28 原始星円盤の形成初期に存在するリング、惑星の早期形成を示唆
- 2020/10/02 「塩」で解き明かす、大質量星形成のメカニズム
- 2020/08/13 卵からかえったばかりの「星のヒナ」を発見
- 2020/08/05 大質量原始星の周辺は複雑な環境
- 2020/02/28 オリオン座に潜む赤ちゃん星たちのポートレート
- 2020/01/30 重い原始星が吐き出す「熱の波」
- 2019/10/25 プレッツェルのような双子星の「へその緒」
- 2019/09/11 双子原始星からの不揃いな分子流を検出、連星系形成の謎に迫る
- 2019/08/08 宇宙の3次元地図作成に活躍、日蘭共同開発の電波受信機「DESHIMA」
- 2019/07/16 大質量原始星を取り巻くガス円盤の姿
- 2019/03/01 原始星から噴き出す2種類のガス流の起源
- 2019/02/12 巨大赤ちゃん星の周りで塩を発見
- 2019/01/17 大質量星形成領域の距離を精密に測定、原始星の存在も確認
- 2019/01/10 生まれたての原始惑星系円盤でも回転軸は不揃い?
- 2018/11/28 猫の手星雲で見つかった糖類分子と宇宙噴水