中間質量ブラックホールの有力候補を多数発見

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矮小銀河などの中心に存在する中間質量ブラックホールの候補天体が2つの研究チームによってそれぞれ数十個発見された。いまだ謎となっている超大質量ブラックホールの形成過程を解明する手がかりとなるかもしれない。

【2018年8月14日 Chandra X-ray Observatory

ブラックホールには、太陽の数十倍の質量を持つ「恒星質量ブラックホール」と、巨大銀河の中心部にあって質量が太陽の100万倍から1億倍にもなる「超大質量ブラックホール」の2種類がある。これらに加えて、太陽の100倍から数十万倍ほどの質量を持つ「中間質量ブラックホール(Intermediate-mass black hole; IMBH)」が存在するのではないかと最近考えられている。IMBHかもしれない天体はいくつか報告されているが、確実にIMBHだといえる発見例はまだなく、IMBHが宇宙にどのくらいの割合で存在しているのかはわかっていない。

今回、2つの国際共同研究チームがそれぞれ独立に、IMBHに関する新たな研究成果を発表した。

スペイン・宇宙科学研究所のMar Mezcuaさんを中心とする研究チームでは、NASAのX線天文衛星「チャンドラ」で行われた「チャンドラ COSMOSレガシー・サーベイ」の観測データを用いて、通常の銀河の1/100ほどの質量しかない「矮小銀河」に存在するIMBHを探した。

この観測は「COSMOS(Cosmic Evolution Survey)」と呼ばれる大規模サーベイ観測キャンペーンの一環として行われたものだ。COSMOSは、ろくぶんぎ座の方向にある約2平方度のエリアを、世界中の天体望遠鏡や観測衛星を使ってあらゆる波長できわめて暗い天体まで根こそぎ撮影しようというプロジェクトである。

チャンドラは2012年11月から2014年3月まで、延べ53日間にわたってCOSMOSサーベイの観測領域をX線で観測した。X線はブラックホール周囲のガスが数百万度にまで加熱されて放射されるため、銀河の中心近くに明るいX線の点光源があれば、そこにブラックホールが存在するまぎれもない証拠となる。

COSMOSサーベイの観測領域
COSMOSサーベイの観測領域。カラーで表示されているのが「チャンドラ」で検出されたX線源で、ほとんどがブラックホールだと考えられている。青色に近いほどX線のエネルギーが高い。「スピッツァー」宇宙望遠鏡で撮影された同じ領域の赤外線画像を白黒で重ねている。右下は銀河中心のブラックホールの想像図(提供:X-ray: NASA/CXC/ICE/M.Mezcua et al.; Infrared: NASA/JPL-Caltech; Illustration: NASA/CXC/A.Hobart)

Mezcuaさんたちはチャンドラのデータから、矮小銀河の中にある活動銀河核(ガスを盛んに取り込んで成長している活動的なブラックホール)を40個発見した。これらは太陽質量の1万倍から10万倍のIMBHだと推定されている。このうち12個は地球から50億光年以上離れた距離にあり、最も遠いものは109億光年の距離にある。これは矮小銀河で見つかった活動銀河核としてはこれまでで最も遠いものだ。また、活動銀河核を持つ矮小銀河として過去最小の銀河も見つけた。

「矮小銀河には未知のIMBHが隠れているかもしれないことがわかりました。ただし、私たちが見つけたのはまだ数十個で、理論を裏付けるほど十分な数のIMBHが見つかったわけではありません」(Mezcuaさん)。

一方、米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのIgor Chilingarianさんたちの研究チームは、スローン・デジタル・スカイ・サーベイの可視光線データから、太陽質量の30万倍以下の活動銀河核を持つとみられる銀河を305個選び出した。この305個のうち18個の銀河について、詳細なX線観測のデータを調べたところ、10個からブラックホールによるX線が検出され、ブラックホールの質量が太陽の4万〜30万倍と求められた。研究チームでは、この個数の比率から、X線を出していないものも含め、305個の候補の約半数はIMBHではないかと見積もっている。発見されたIMBH候補天体は約9割が13億光年以内にあり、最も遠いものは28億光年の距離にある。

「これは過去最大のIMBHのサンプルです。これらのブラックホールは今後、超大質量ブラックホール形成の謎を解明するために活用されるでしょう」(Chilingarianさん)。

超大質量ブラックホールはビッグバンから間もない初期宇宙でも見つかっているが、ビッグバンの後、どうやってこれほど速く超大質量ブラックホールが作られたのかはわかっていない。宇宙で最初に作られた恒星たちが一生を終えてブラックホールとなり、これらが合体して超大質量ブラックホールができたとすると、時間がかかりすぎるのだ。

Mezcuaさんたちの結果は、太陽の数十万倍の質量を持つ巨大ガス雲が収縮して、短期間で一気に超大質量ブラックホールができるというモデルに合うようにみえる。このモデルでは、小さな銀河ほどIMBHが存在する割合が少ないという、Mezcuaさんたちと同じ結果を予言しているからだ。

一方、Chilingarianさんの結果からはかなりの数のIMBHが宇宙に存在することが示唆されるため、太陽質量の100倍程度の「ブラックホールの種」が時間をかけて合体してIMBHになり、IMBHがさらに合体して超大質量ブラックホールになる、というモデルに合っているように思われる。

あるいは、両方のメカニズムが同時に起こって超大質量ブラックホールが作られるのかもしれない。どちらの研究チームも、より確かな結論を得るためには、将来打ち上げられる観測衛星でさらに多くのブラックホールのサンプルを得る必要があるという点では一致している。

(文:中野太郎)

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