天の川銀河で中間質量ブラックホール候補の実体を初確認

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天の川銀河の中心に存在する特異分子雲の電波観測で、その近くにコンパクトな高密度分子雲と点状電波源が検出された。シミュレーション結果から点状電波源は約10万太陽質量のブラックホールと考えられ、「中間質量ブラックホール」候補の実体の初の確認例となった。

【2017年9月8日 アルマ望遠鏡慶應義塾大学

天の川銀河をはじめ多くの銀河の中心には、太陽質量の数百万倍を超える超大質量ブラックホールがあると考えられている。しかし、その起源は未だ解明されていない。

一つの説として、恒星同士の暴走的合体によって「中間質量ブラックホール」が形成され、さらにそれらが合体を繰り返して銀河中心の超大質量ブラックホールが作られるというものがある。この中間質量ブラックホールの候補天体は数多く検出されてきたが、確定的な例はこれまでなかった。

慶應義塾大学の岡朋治さんたちの研究チームは2016年、天の川銀河の中心に存在する特異分子雲「CO-0.40-0.22」の研究結果として、この領域に約10万太陽質量の中間質量ブラックホールが潜んでいる可能性を指摘した(参照:アストロアーツニュース「天の川銀河内で2番目に大質量のブラックホールの兆候」)。

さらに今回、岡さんたちがアルマ望遠鏡でこの特異分子雲の電波分光観測を行ったところ、分子雲の中心付近に1.5光年程度の大きさをもつコンパクトな高密度分子雲と、それに隣接する点状の連続波電波源「CO-0.40-0.22*」が検出された。コンパクト高密度分子雲の速度幅は毎秒100kmを超えており、電波源の位置に近づくにしたがって急激に大きな速度となっている。一方、点状電波源は天の川銀河の中心核「いて座A*」の500分の1の明るさを持ち、プラズマまたは星間塵からの放射とは明らかに異なるスペクトルを示していた。

一酸化炭素の回転スペクトル線強度の広域合成図など
(a)国立天文台野辺山45m電波望遠鏡および国立天文台アタカマサブミリ波望遠鏡実験(ASTE)で得られた、一酸化炭素の115GHz/346GHz回転スペクトル線強度の広域合成図/(b)ASTEで得られたシアン化水素の355GHz回転スペクトル線の積分強度分布と(c)銀経方向の速度分布/(d)アルマ望遠鏡によるシアン化水素の266GHz回転スペクトル線の積分強度分布と(e)266GHz連続波の強度分布(提供:岡朋治(慶応義塾大学)、以下同)

これらの結果を受け、特異分子雲内におけるガスの分布・運動をコンピューターシミュレーションで再現したところ、点状電波源が太陽の10万倍の質量をもつような条件で、観測された状態が非常によく表されることが確かめられた。アルマ望遠鏡の高解像度観測でこの電波源の半径が0.07光年よりもじゅうぶん小さいことがわかっているので、電波源の質量密度は非常に高いことになる。

スペクトルの特徴が通常の高密度ガス雲や星の集合体で説明できないことと合わせて考えると、この点状電波源は特異分子雲の中に存在が示唆されていた中間質量ブラックホール本体である可能性が非常に高いといえる。これは天の川銀河において中間質量ブラックホール候補天体の実体をとらえた初の例だ。

中間質量ブラックホールの存在が銀河中心核から200光年という比較的近い距離で確認されたことで、銀河中心の超大質量ブラックホールが中間質量ブラックホールの合体によって作られるというシナリオを支持する強力な観測的事実が得られたことになる。

今回の研究はさらに、従来の方法では見つけることが困難であった暗く孤立した「野良ブラックホール」の存在を、分子ガスのスペクトル線観測によって確認する手法が有効であることを改めて示した。研究チームは天の川銀河の円盤部でも今回と同様の高速度ガス成分を検出しており、これらの多くは野良ブラックホールに駆動されたものと考えられている(参照:アストロアーツニュース「天の川を撃ち抜く超音速の弾丸、正体は浮遊ブラックホールの可能性」)。天の川銀河内には1億~10億個ものブラックホールが浮遊しているという理論予測もあり、今回の研究と同様の手法を用いることで、ブラックホールの候補天体の数が今後飛躍的に増えることが期待される。

中間質量ブラックホールによる重力散乱で加速されるガス雲
中間質量ブラックホールによる重力散乱でガス雲が加速される様子の想像図

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