アメリカ横断皆既日食でとらえられた太陽極域ジェット
【2018年7月3日 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト】
太陽コロナの中でジェットが噴き出していることは、人工衛星による軟X線や紫外線の観測から知られている。こうした観測ではコロナの低空を見ているため、ジェットで噴き出したプラズマがどこまで到達しているか、太陽系にまで噴出して地球にも影響を及ぼす可能性があるのかはよくわかっていなかった。
皆既日食は、コロナの構造を太陽表面近くから数百万km上空まで一度にとらえられる稀有な機会である。そこで国立天文台の花岡庸一郎さんたち太陽観測科学プロジェクトでは、2017年8月21日に北アメリカで見られた皆既日食をアマチュア天文家とともに観測し、コロナの時間変化を詳しく追跡した。
皆既日食は一つの地点ではたかだか数分間しか見られないが、2017年8月の皆既日食は月の本影が北米大陸を約90分かけて横断するものだったことから、コロナの変化を調べる絶好の機会となった。研究チームでは、アメリカのオレゴン州からテネシー州までの7か所で白色光コロナのデータを得ることに成功した。
この観測で、太陽極域のコロナホールから上空に延びるポーラープリュームの中に、ジェット状の上昇流(日食ジェット)が6つとらえられた。6つのジェットの平均上昇速度は毎秒約450kmにも及んでおり、最終的にジェットは太陽系へと噴出していっていると考えられる。
この結果を太陽観測衛星による紫外線・X線のデータと組み合わせて調べると、日食で見えた6つのジェットすべてで、紫外線・X線ジェットが先だって発生していたことがわかった。また反対に、日食に近い時間帯に起こった通常の明るさの紫外線・X線ジェットは、すべて日食ジェットを伴っていた。このことは、低空で見えていた通常の極域ジェットが、実際にははるか上空まで吹き上がっていることを示す結果である。
日食ジェットの例(左:ジェットの発生前、右:発生後)。それぞれの左上隅は、紫外線で見た根元部分の拡大像。右の画像にあるように、18時1分(世界時)にまず紫外線でジェットが見え(左上の拡大図)、その27分後の広域図で、はるか上空100万kmを超えるところまで伸びたジェットが見えている。日食画像は見やすいように処理(提供:国立天文台 太陽観測科学プロジェクト、紫外線画像:NASA「SDO」および「AIA」科学チーム)
太陽の極域からは高速太陽風が噴き出しており、その一部は地球へも到達して地球に様々な影響を及ぼす。今回、皆既日食を利用してアマチュア天文家と共に太陽コロナを上空まで観測し、太陽観測衛星によるデータと組み合わせて太陽表面から遠方まで切れ目なくコロナを調べることで、極域ジェットが太陽風の源泉の一部となる様子がとらえられたことになる。
太陽の極域から噴き出す高速太陽風と極域ジェットの模式図。ともに太陽系へと噴き出して、一部は地球にも達している(提供:リリースページより)
〈参照〉
- 国立天文台 太陽観測科学プロジェクト:太陽系へ噴出していく太陽極域ジェットを皆既日食でとらえた
- The Astrophysical Journal:Solar Coronal Jets Extending to High Altitudes Observed during the 2017 August 21 Total Eclipse 論文
〈関連リンク〉
- SDO
- AIA(Atmospheric Imaging Assembly)
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:2017年8月21日 北米皆既日食
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