冥王星は10億個もの彗星衝突でできたのかもしれない

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探査機「ニューホライズンズ」による冥王星の観測データと「ロゼッタ」で得られた彗星の化学組成のデータから、冥王星はたくさんの彗星が集積して形成されたという新しいモデルが提唱された。

【2018年5月31日 サウスウエスト研究所

米・サウスウエスト研究所のChristopher GleinさんとJ. Hunter Waite Jr.さんは、NASAの探査機「ニューホライズンズ」による冥王星の観測データとヨーロッパ宇宙機関の探査機「ロゼッタ」による「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)」の観測データを組み合わせて、冥王星がどのように形成されたのかを説明する新しい理論を構築した。彼らはこの新しい冥王星形成モデルを「巨大彗星・宇宙化学モデル」と呼んでいる。

Gleinさんたちの研究の中心にあるのは、冥王星の「スプートニク平原」にある窒素の豊富な氷だ。スプートニク平原は大きな氷床で、「トンボー領域」という明るいハート型地形の左半分を形作っている。

スプートニク平原
ニューホライズンズが撮影した巨大な氷床「スプートニク平原」。冥王星表面にあるハート模様の左半分を占める(提供:NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute、以下同)

「チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に似た化学組成を持つ、彗星や別種のカイパーベルト天体がおよそ10億個ほど集積して、冥王星が作られたと仮定しました。すると、冥王星に存在するであろう窒素の量は、実際にニューホライズンズで観測されたスプートニク平原の窒素の量とほぼ同じになる、という興味深い結果が得られました」(Gleinさん)。

Gleinさんたちは、彗星が集まって冥王星ができたというモデルに加えて、太陽に近い化学組成を持つ低温の氷が集積してできたというモデルについても同様に調べた。

今回のモデルを作る上で、Gleinさんたちは現在の冥王星の大気や氷床に存在する窒素の量を把握するだけではなく、冥王星ができてから現在までの数十億年にわたって、どれくらいの窒素が大気から宇宙空間に逃げたのかについても見積もった。さらに、より完全なモデルにするため、窒素に対する一酸化炭素の比率についてもモデルと観測値とを合わせる必要があった。このモデルによる予測では、現在の冥王星に存在する一酸化炭素の量が実際よりも多くなるが、これについては、一酸化炭素は表面の氷の中に埋もれているか、あるいは液体の水の作用で分解されたことが示唆される。

「今回の研究から、冥王星のもともとの化学組成は冥王星を形作った彗星の組成を引き継いでいたものの、のちに液体の水によって化学的に変えられたことが示唆されます。もしかすると、冥王星の地下海の水によって変化したという可能性もありえます」(Gleinさん)。

しかし、太陽に近い組成の材料から冥王星が作られたというモデルでも、いくつかの条件を満たすことはできる。今回の結果からは興味深い可能性がいくつか示されている一方で、多くの疑問も未解決のまま残されている。

「今回の研究は、ニューホライズンズやロゼッタミッションの素晴らしい成功を基礎として、冥王星の起源や進化に関する理解をさらに広げるものとなりました。化学を『捜査』の道具として使うと、今日の冥王星に見られる特徴が、遠い昔から現在までの冥王星の形成過程に由来していることを突き止めることができます。私たちは冥王星の歴史の豊饒さに、ようやく気づいたところです」(Gleinさん)。

冥王星の表面の組成
ニューホライズンズの可視光・赤外線撮像分光装置「Ralph」がとらえた冥王星の表面の組成。左上から時計周りに、メタン(CH4)、窒素(N2)、一酸化炭素(CO)、水(H2O)が豊富な領域を表す。スプートニク平原に窒素が多いことがわかる

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