天の川銀河の中心に1万個のブラックホール
【2018年4月9日 Chandra X-Ray Observatory】
天の川銀河の中心には「いて座A*」と呼ばれる超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。いて座A*の周りはガスと塵からなるハローが取り巻いており、質量の大きな星が誕生する格好の場所となっている。ここで生まれた大質量星は数億年から数千万年という短い一生の最期に超新星爆発を起こし、ブラックホールになるはずだ。
X線天文衛星「チャンドラ」で撮影された天の川銀河の中心部。中央の明るい領域がいて座A*(提供:NASA/CXC/SAO)
また、このハローの外にあるブラックホールも、力学的摩擦という効果で次第にエネルギーを失い、銀河中心に向かって落ちてくる。中心部に落ち込んだブラックホールは超大質量ブラックホールの重力に捕らえられる。
超大質量ブラックホールに捕まったブラックホールの大半は単独のままだが、一部は近くの恒星を捕まえて連星となる。天の川銀河の中心部にはこのような、単独もしくは恒星との連星になったブラックホールがたくさん集まっていて、中心の超大質量ブラックホールに近い場所ほど密度が高い「密度カスプ」という分布を作っていると考えられている。
「天の川銀河は直径10万光年もありますが、現在までに知られているブラックホールは銀河全体でも50〜60個にすぎません。理論的予測では、天の川銀河の中心からわずか6光年の範囲に1万〜2万個のブラックホールが存在するかもしれないと考えられていますが、確実な観測的証拠はまだありません」(米・コロンビア大学 Chuck Haileyさん、以下同)。
これまで、こうしたブラックホールの密度カスプを探す研究では、ブラックホールを含む連星系で時おり起こるX線の明るい増光を探すという方法がとられてきた。しかし、天の川銀河の中心は地球から約2万7000光年とかなり遠いため、100年から1000年に一度起こるかどうかという非常に強いX線バーストでない限り、地球からは検出できない。
そこでHaileyさんたちの研究チームでは、ブラックホールが質量の小さな普通の星と連星になっている「小質量X線連星」と呼ばれる天体を使うことにした。このタイプの連星はやや弱いながらも頻度の高い、検出可能なX線バーストを起こす。小質量X線連星を見つけて、どのくらいの割合でブラックホールがこのタイプの連星になっているかを調べれば、単独のブラックホールの数を科学的に推定できる。
HaileyさんたちがNASAのX線天文衛星「チャンドラ」の過去の観測データを調べ、小質量X線連星が放射するX線の検出例を探したところ、いて座A*から3光年以内の範囲で12個の現象が見つかった。観測されたX線の特徴や連星の空間分布の分析から、Haileyさんたちは、いて座A*の周囲3光年以内には300〜500個の小質量X線連星が存在し、単独のブラックホールも約1万個あると結論づけた。
「今回の発見によって、これまでの理論の主要部分が裏付けられ、それ以外にも数多くの示唆が得られました。この結果は重力波研究の分野でも大きな進展につながるでしょう。典型的な銀河の中心部に存在するブラックホールの数を知ることができれば、どのくらいの数の重力波イベントがブラックホールに関係しているかを見積もるのに役立つからです。天体物理学で必要な情報のすべては銀河中心にあるのです」。
(文:中野太郎)
〈参照〉
- Chandra Press Room:New Study Suggests Tens of Thousands of Black Holes Exist in Milky Way's Center
- Nature:A density cusp of quiescent X-ray binaries in the central parsec of the Galaxy 論文
〈関連リンク〉
- X線天文衛星「チャンドラ」:
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