クロックバースターの異常に短いX線バースト周期

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X線衛星「ニンジャサット」の観測により、クロックバースターと呼ばれるタイプの天体で短い周期のX線バーストが検出された。従来の理論では説明できず、これまで考慮されてこなかった効果があることが示唆される。

【2025年10月29日 広島大学

日本初の超小型X線汎用衛星「ニンジャサット(NinjaSat)」は、突発的に明るくなる天体の観測により、高エネルギー現象の研究に様々な貢献をもたらしてきた(参照:「超小型衛星「ニンジャサット」、史上6例目の珍しい中性子星を観測」「中性子星表面の核融合による特大爆発「スーパーバースト」)。

ニンジャサットの観測対象の一つであるX線バーストは、連星系で恒星からのガスが中性子星の表面に降り積もって温度と圧力が上昇し、核融合反応を起こして爆発する現象である。宇宙における元素合成場所の一つとしても注目されているが、なかでも規則正しくX線バーストを繰り返す「クロックバースター」は、観測結果と理論モデルの比較に最適で、中性子星の物理を理解する鍵になると期待されている。これまでの研究から、バーストの再帰時間(融合反応の点火条件に達するまでに要する時間)が主にガスの降着速度や組成、中性子星の質量・半径に依存することがわかってきた。

現在7天体しか見つかっていないクロックバースターのうち、いて座の方向にある「GS 1826-238」は、日本のX線衛星「ぎんが」が1998年に発見した初のクロックバースターで、長く観測研究が進められてきた。この天体は2015年以降は不規則バーストの状態にあり、規則的なバーストの再起が待ち望まれていた。

クロックバースター「GS 1826-238」の想像図
決まった時間間隔で爆発を起こすクロックバースター「GS 1826-238」の想像図(提供:2025 RIKEN/Souichi Takahasi)

広島大学の武田朋志さんたちの研究チームは、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に設置されているX線監視装置「MAXI」の公開観測データから、GS 1826-238が約10年ぶりに規則的なX線バーストを再開した兆候を発見した。そこで、今年6月23日からニンジャサットで高感度・高頻度の追跡観測を実施したところ、1.6時間のバースト再帰時間が見いだされた。この天体の観測史上で最も短く、ガスの降着速度から予想されるよりも短い時間だ。

GS 1826-238の定常X線放射の明るさとバースト再帰時間の関係
GS 1826-238の定常X線放射の明るさとバースト再帰時間の関係。過去の観測では、X線で明るくなる(ガスの降着速度が速くなる)につれてバーストの再帰時間が短くなり、反比例の関係(点線)に概ね従う。一方で、今回の観測結果(赤丸)はこの関係から下方にずれている(提供:広島大学リリース)

ずれの原因としては、従来考えられてきた中性子星表面全体への一様な降着ではなく、一時的に局所的な領域への降着が起こって単位面積あたりの降着速度が上昇し、点火が早まった可能性が考えられる。あるいは、長期的なガス降着によって中性子星内部の温度が上昇し、点火が早まった可能性もある。いずれの場合も、これまでのX線バースト理論モデルでは十分に考慮されてこなかった新たな要因が働いていることが示唆される。今後の観測と理論研究で、X線バーストの点火条件の理解が進むこと、さらに中性子星そのものの理解も深まることが期待される。