巨大な嵐が引き起こす土星大気の動悸

このエントリーをはてなブックマークに追加
地球にも見られる、惑星大気の赤道域の成層圏で起こる準周期振動について、土星では中緯度域で発生した巨大な嵐の影響で乱れることが観測データから示された。

【2017年12月20日 ヨーロッパ宇宙機関

地球と木星と土星は一見大きく異なっているようだが、赤道領域上空の大気では非常によく似たパターンの現象が起こっており、数年の周期で温度や風向きが変化する。惑星の「鼓動」のようなこの現象は、地球では「準2年周期振動(Quasi-Biennial Oscillation:QBO)」と呼ばれており、似たような現象であることから土星の場合は「準周期振動(Quasi-Periodic Oscillation: QPO)」 、木星の場合は「準4年周期振動(Quasi-Quadrennial Oscillation:QQO)」と呼ばれている。

土星の赤道域の温度分布
土星の赤道域の温度分布(2010年4月の例)。リリース元では2004年から2016年までの変化を動画で見ることができる(提供:ESA/NASA)

地球のQBOは平均約28か月で規則正しく繰り返されているが、赤道から遠く離れた領域で起こる現象によって時おり乱れることがある。英・レスター大学のLeigh Fletcherさんたちの研究グループが探査機「カッシーニ」による長期観測データを調べたところ、土星のQPOでも同様の乱れが起こっていたことが明らかになった。

「約15年毎に繰り返される振動の周期観測データを見たところ、2011年から2013年にかけて赤道領域全体の温度が急激に低下していました。『動悸』のような大きな大気の乱れです。このタイミングを調べると、土星の北半球を一周するほど巨大な嵐が発生した直後であることがわかり、2つの現象の関連性が示唆されました。数万kmも離れているにも関わらず、巨大な嵐に伴う活動が赤道に向かい、QPOの乱れを生み出したと考えています」(フランス気象力学研究所 Sandrine Guerletさん)。

北半球の中緯度域で巨大な嵐が発達する様子
土星の北半球の中緯度域で発生した巨大な嵐。2010年12月から2011年8月までの様子(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

こうした巨大な嵐は、土星の1年(地球上の約29年)に1回程度の率で発生する。カッシーニは13年に及ぶ土星周回軌道上から、タイミング良く発生した嵐を詳細に観測する機会に恵まれたわけだ。土星の嵐の影響はかなりのものであることが知られていたが、今回の研究から予想以上の影響を及ぼすことが示され、土星の赤道付近のQPOと遠く離れた領域で起こる現象との関係が確認されることとなった。

地球では、ある地域の気象の変動が遠方まで影響を及ぼすという関係は「テレコネクション(遠隔相関)」として知られている。世界中の気象パターンは細かくつながっており、お互いに大きな影響を与える可能性がある。その重要な例が、周期性をもったテレコネクションである「エルニーニョ南方振動」だ。南方振動では、赤道太平洋の海面温度と大気とが連動して変動し、地球全体の気温や気候パターンに影響を与えることがある。

「地球以外の惑星で、特に地球とは非常に大きく異なる土星で、このプロセスが起こっているとわかり、驚きました。カッシーニと小型探査機「ホイヘンス」のミッションは終わったかもしれませんが、まだ多くのデータの分析が控えていますし、そこには膨大な量の情報が眠っているでしょう。土星や巨大ガス惑星だけでなく、地球のより深い理解につながる研究なのです」(カッシーニ・ホイヘンスミッション・プロジェクトサイエンティスト Nicolas Altobelliさん)。

〈参照〉

〈関連リンク〉