銀河中心ブラックホールから飛び出す高温ガスの塊
【2017年8月18日 Caltech】
銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールは強い重力によって周囲の物質を引きつけ、その物質の一部はガスのジェットとなって光速に近い速度で噴き出す。ジェットは100万年から1000万年ほど活発で、数年ごとに高温の物質の塊を吐き出すが、内部の構造や現象のメカニズムについてはよくわかっていない。
米・カリフォルニア工科大学のHarish Vedanthamさん、米・オーウェンズバレー電波天文台のAnthony Readheadさんたちの研究チームは、うしかい座の方向に位置する活動銀河「PKS 1413+135」の超大質量ブラックホールから飛び出したガス塊を電波観測した。活動銀河と私たちとの間に存在する天体によって重力レンズ現象が起こったおかげで、これまでにない高精度での観測が可能となっている。
「私たちが見ているのはブラックホールに非常に近い塊で、差し渡し数光年しかないとても小さなものです。重力レンズにより100倍も精度が向上し、100万分の1秒角というこの上ない分解能が得られましたが、これは地球から月面上の塩1粒を見つけられるほどの能力に匹敵します」(Readheadさん)。
観測のイメージイラスト。(左上から右下へ)観測対象の銀河「PKS 1413+135」、重力レンズ源が含まれる渦巻銀河、OVROの40m望遠鏡(提供:Anthony Readhead/Caltech/MOJAVE)
PKS 1413+135では2010年と2015年に、電波放射が左右対称に明るくなったかと思うと暗くなり、再び明るくなる現象がとらえられた。慎重な分析の結果、この現象の原因はおそらく数年の間隔をおいてブラックホールから連続して放出された2つの高速のガス塊だろうと結論づけられた。これらの塊がジェットに沿って移動し、今回発見され「ミリレンズ(milli-lens)」と名付けられた重力レンズ源の背後を通過する際に明るくなったと考えられる。
この銀河からは今後数年のうちに別のガス塊が放出されることが予測されており、地球上のあちこちに設置された電波望遠鏡が協力して観測を行うVLBIによる観測が予定されている。ガス塊の像はミリレンズによって光が湾曲するため弧状になるはずで、孤の存在がとらえられれば、ミリレンズ越しにガス塊を観測していることが確認できる。
高温高速度のガス塊だけでなく、重力レンズ源となっている天体も重要だ。というのもこの天体は、これまでに観測されている個々の星から成るマイクロレンズより大きく、よく研究されている銀河ほどのサイズの巨大なレンズよりは小さい、初の中間質量レンズであろうと考えられているからだ。中間質量を持つ天体はあまりよく理解されておらず、レンズそのものも興味深い。
ミリレンズ天体の質量は太陽の1万倍ほどで、その正体は星団である可能性が最も高いと考えられている。拡大される天体全体を隠してしまわないおかげで、ガス塊一つ一つが移動する様子を観測できるというメリットもある。
「この重力レンズシステムは、ミリレンズと、活動が活発な銀河の中心ジェット内部のふるまいの両方を研究するための、宇宙に浮かぶ実験室となり得るかもしれません」(Readheadさん)。
〈参照〉
- Caltech:Cosmic Magnifying Lens Reveals Inner Jets of Black Holes
- The Astrophysical Journal:論文
〈関連リンク〉
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