太陽系最強の木星磁気圏に太陽風の影響

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惑星分光観測衛星「ひさき」の観測から、木星磁気圏の内部にまで太陽風が影響を及ぼしていることが示された。強力な木星磁気圏の内部深くに守られている木星の近くには太陽風の影響は及ばないという従来の考えを覆す観測結果だ。

【2017年1月26日 JAXA/ISAS

太陽は常に秒速数百kmに及ぶ高速のプラズマ流(太陽風)を吹き出しており、太陽系の惑星はその風の中にさらされ続けている。太陽風に対して、惑星の持つ磁場はバリアのような役割を果たし、それらに守られた領域(磁気圏)を形成している。

たとえば地球の場合、磁場のおかげで太陽風の直撃を免れているものの、一部の太陽風は侵入してオーロラや放射線帯などを引き起こしている。また、大規模な磁場がない火星や金星では、太陽風の影響で大気の一部が宇宙空間へ吹き流され続けている。

木星は地球の約2万倍もの強い磁場を持っており、その磁気圏バリアは太陽系で最大・最強だ。しかも地球に比べ太陽から遠いため、木星の近傍には太陽風の影響が及ぶはずがないと考えられてきた。

一方、太陽風の影響を示唆する観測事実もあった。木星半径の約6倍の距離には、衛星イオの火山ガスに起因するドーナツ状に分布するプラズマ雲(イオプラズマトーラス)が存在するが、トーラス中のプラズマの明るさは平均的に太陽方向に対して夕側で明るく、朝側で暗いという非対称性がある。なぜ朝夕非対称性が生まれているのかは未解明のままだった。

JAXAの村上豪さんたちの研究チームは、イオプラズマトーラスに朝夕非対称性が存在するのは木星近傍に太陽風が何らかの影響を及ぼしているためではないかと考え、惑星分光観測衛星「ひさき」で1か月以上にわたってイオプラズマトーラスを観測した。

今回の研究の概念図
今回の研究の概念図、観測を行う「ひさき」と木星(提供:JAXA/ISAS)

その結果、平均的に夕側の方が明るいというこれまでの観測事実が確かめられ、さらに、非常に激しく時間変化していることや、時に突発的に夕側が朝側の2.5倍以上も明るくなる事実も見出された。

これらの変化を、地球近傍での観測から見積もられた木星での太陽風の強さと比較することで、イオプラズマトーラスの朝夕非対称における突発的な変化が太陽風の変動に応答していることがわかった。つまり太陽風の影響は、太陽系最強のバリアである木星磁気圏の内部深くにまで及んでいたことになる。これまで考えられてきた「太陽風は木星磁気圏の内部に影響を及ぼさない」という定説を覆す結果だ。

今後研究チームでは、昨年夏に木星周回軌道に投入されたNASAの木星探査機「ジュノー」と「ひさき」による同時観測を行い、ジュノーが観測する木星近傍での電流の変化と「ひさき」によるイオプラズマトーラスの時間変化とを比較して、その因果関係を明らかにする予定だ。