ブラックホールの振動モードが分かれたり消えたりする謎を解明

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理論解析と数値計算により、回転ブラックホールが放つ重力波の振動モードが分かれたり消えたりするように見える現象の起源が明らかになった。これにより、約40年前から知られる重力波の未解決問題に決着がついた。

【2026年11月5日 東京大学宇宙線研究所】

2つのブラックホールが互いの周りを回るブラックホール連星は、次第に接近し、最終的に合体する。その後、安定した回転ブラックホールへと落ち着いていく過程で、鐘をたたいた後のように特徴的な振動を伴う重力波が放射される。この「リングダウン」と呼ばれる振動は、主に「準固有振動」と呼ばれる、時間とともに減衰する振動の重ね合わせとして記述される。

ブラックホール連星の合体に伴う重力波とその特徴的な振動の概念図
ブラックホール連星の合体に伴う重力波とその特徴的な振動の概念図(提供:東京大学宇宙線研究所リリース、以下同)

準固有振動の周波数はブラックホールの質量と回転によって決まるため、重力波からブラックホールの性質を調べ、一般相対性理論を検証する「ブラックホール分光学」の基礎となっている。

ところが、回転ブラックホールの準固有振動には、「代数的に特別な周波数」と呼ばれる特殊な周波数の近くで、モードが2つに分かれたり、突然消えたり、回転をゼロにした極限へ滑らかにつながらないように見えたりする不思議な振る舞いがある。この周波数は、ブラックホール周りの重力摂動が従う方程式の解が、特別な数学的性質を持つ周波数だ。この振る舞いは約40年前の研究で見つかっていたが、その全体像や物理的な起源は十分に理解されていなかった。

東京大学宇宙線研究所の窪田圭一郎さんと東京都立大学の本橋隼人さんの研究チームは、外部からの刺激に対するブラックホールの応答を表す「グリーン関数」に注目した。従来は、応答が非常に大きくなる周波数で、準固有振動に対応する「極」だけが追跡されてきた。研究チームはこれに加えて、反対に応答がゼロになる「零点」も同時に追跡した。

さらに、振動の周波数と減衰の速さを複素数(実数と虚数の組み合わせ)でまとめて表す「複素周波数空間」で、複数の「面」が重なった数学的構造「リーマン面」をまたいで、極と零点がどのように動くかを詳しく調べた。

ブラックホールの応答を表す複素周波数空間のリーマン面
ブラックホールの応答を表す複素周波数空間のリーマン面。色は応答の位相を表し、×印が準固有振動に対応する「極」、点が熱的な周波数に対応する「零点」を表す。複数の面を調べることで、従来の見方では隠れていた面のモードを追跡できる

その結果、これまで1つのモード(振動)が2つに分かれているように見えていた現象は、実際には異なるリーマン面に存在する2つのモードが互いに接近し、交差せずに反発する「擬交差」によって生じていることがわかった。

擬交差に特徴的な振る舞いは本橋さんの近年の研究で明らかにされていたが、今回見つかったモードでもその特徴がはっきりと確認された。また、この擬交差に伴ってモードの励起度が大きく増幅される「共鳴励起」が起こることも明らかになった。

ブラックホールの回転を変えたときの準固有振動の軌跡
ブラックホールの回転を変えたときの準固有振動の軌跡。ブラックホールの質量で規格化した準固有振動の周波数(横軸)と減衰率(縦軸)を、ブラックホールの角運動量の変化に対して示したもの。右半面は従来から知られていたスペクトル、左半面は本研究によって新たに明らかになったスペクトルで、今回の研究で着目したのは青線と赤線

一方、回転をゼロに近づけたときにモードが消えるように見える現象は、「ポールスキッピング」で説明できることがわかった。ポールスキッピングとは、準固有振動を表す「極」が、ブラックホールの温度(ホーキング温度)に関係する特別な周波数「松原周波数」に現れる「零点」とぴったり重なり、互いに打ち消し合う現象のことである。さらに、同様の現象がより高い多重極のモードでも起こることを確認した。

今回の結果は、ブラックホールの振動スペクトルを正しく理解するためには、モードを表す「極」の軌跡だけでなく、「零点」との相互作用まで含めて調べることが重要であることを示している。

ブラックホールの回転を変えたときの準固有振動の軌跡の拡大図と励起因子の軌跡
ブラックホールの回転を変えたときの準固有振動の軌跡を拡大した図(左)と励起因子の軌跡(右)。左図は、本研究で着目する「代数的に特別な周波数」(白丸)付近の、上図の周波数・減衰率の軌跡を拡大したもので、赤線と青線は上図の赤線と青線に対応する。右図の「励起因子」は、各モードの励起されやすさを表す。白丸では極と零点が衝突し、ポールスキッピングが起こっている

この成果は、重力波によるブラックホール分光学の理論的な土台をより確かなものにするとともに、ブラックホールの振動と、ほかの物理学の分野とのつながりも示した。ブラックホールの振動は、エネルギーを外へ逃がしながら弱まっていく振動であり、ブラックホールは温度をもつ天体でもある。こうした性質をもつ系の研究では、応答が極端に大きくなる「極」と、応答が消える「零点」の関係が注目されてきたが、今回の研究は、この関係がブラックホールの振動でも重要な役割を果たすことを明らかにした。

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