宇宙最遠方の「死にゆく巨大銀河」で輝く大質量ブラックホール

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すばる望遠鏡が発見したクエーサーをJWSTで追観測し、クエーサーの親銀河が大質量に成長しつつ星形成を終えかけていることが明らかにされた。初期宇宙における銀河とブラックホールの成長の歴史を解き明かす手がかりとなる。

【2025年9月26日 すばる望遠鏡

銀河の中心には、太陽の10万倍から数百億倍もの質量を持つ大質量ブラックホール(巨大ブラックホール)が存在する。近傍の銀河の観測から、銀河とその中心ブラックホールの質量には強い関係があることが示されている。スケールの大きく異なる両者が互いに影響し合って成長してきた「共進化」を示唆するものだが、その関係がいつ、どのように始まったのかはわかっていない。

共進化の謎を明らかにするには、できるだけ遠方の宇宙で、銀河と大質量ブラックホールを個別にとらえることが鍵となる。このような遠方の(初期の)宇宙に存在する、活動が活発なブラックホールへ物質が落ち込む際のエネルギー放射で明るく輝く天体は「クエーサー」と呼ばれ、重要な観測対象となっているが、クエーサーの輝きに隠れた銀河の星成分を直接とらえ、その性質を調べることは困難だった。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)/早稲田大学高等研究所の尾上匡房さんたちの研究チームは、129億光年彼方の宇宙に存在する2つのクエーサー「J2236+0032」(みずがめ座)と「J1512+4422」(うしかい座)を、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外分光器「NIRSpec」で観測した。2つのクエーサーは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム」による広域撮像探査(HSC-SSP)で発見され、JWST科学運用初年度に追観測された天体の一部に当たる。

観測データを解析したところ、クエーサーからの明るい光に加えて、親銀河由来の光が含まれていることを意味する中性水素の吸収線が検出された。この吸収線の特徴を調べたところ、銀河内に若い星が少なく、観測時点から数億年前に起こした爆発的な星形成後に成長が停止または減速している状態であることが判明した。

星形成を終わりに導いたのは、銀河中心のブラックホールが成長する際に放つ強い放射という可能性が考えられる。このような「ポストスターバースト銀河」は、JWSTの登場以前には、宇宙全体で星形成活動が落ち着いた約80億光年前ほどまでの時代にしか見つかっていなかったものだ。

星形成活動が停止期に向かう成熟した銀河と、その中心で輝くクエーサー
星形成活動が停止期に向かう成熟した銀河(左)と、その中心で輝くクエーサー(右)の想像図(提供:Kavli IPMU)

また、両銀河がそれぞれ太陽の600億個分と400億個分に相当する星を抱える巨大銀河であることも明らかになった。J2236+0032については「バルマーブレイク」と呼ばれる、銀河が比較的歳をとった星で構成されていることを示す特徴的な連続スペクトルもとらえられた。

J2236+0032とJ1512+4422は、活動中の大質量ブラックホールを持ち、かつ星形成活動が静穏期に入った大質量銀河としては観測史上最も若い宇宙、つまり観測史上最遠方に位置している。「ビッグバンから10億年にも満たない遠方宇宙で、このような成熟した銀河が存在することは大変な驚きです。さらに注目すべきは、これらの『死にゆく』銀河の中で活動を続ける大質量ブラックホールの存在です」(尾上さん)。

これまでの研究から、大質量ブラックホールの活動が親銀河の成長を抑え、活発に星が生まれる「星形成期」から星の誕生が少ない「静止期」への移行を促す可能性が指摘されていた。今回の発見はその現場をとらえたもので、初期宇宙における銀河とブラックホールの複雑な成長の歴史を解き明かすための新たな手がかりとなる。

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