棒状構造による爆発的星形成を見せる太古のモンスター銀河

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111億光年彼方の巨大な銀河が、現代の棒渦巻銀河とよく似た姿をしていて、その棒状構造によりガスが吹き荒れて猛烈な星形成を起こしていることが明らかにされた。

【2025年5月28日 アルマ望遠鏡

私たちが存在する天の川銀河を含め、近傍の大質量円盤銀河の約半数では中心部に棒状構造が見られる。棒状構造はガスを銀河の内側へ輸送して中心部で爆発的な星形成を引き起こすという、銀河進化において極めて重要な役割を果たしていると考えられている。

近年のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による近赤外線観測から、115億光年彼方と遠方にある「モンスター銀河」(爆発的星形成銀河)と呼ばれる銀河も立派な円盤構造や棒状構造を持つことが明らかになってきた。しかし、JWSTの観測では銀河内のガスの運動を詳しく調べることが困難なため、モンスター銀河における棒状構造の影響や活発な星形成が起こるメカニズムを解明するには至っていなかった。

国立天文台/名古屋大学の黄爍(Shuo Huang)さんたちの研究チームは、くじら座の方向111億年彼方に位置するモンスター銀河「J0107a」に着目し、アルマ望遠鏡を使ってJ0107a内の星間分子から放出される電波を観測した。J0107aは、宇宙誕生から26億年程度という時代の銀河としては最大級の棒渦巻構造を持ち、モンスター銀河として他に例がないほど現代の銀河とそっくりの姿をしている。また、天の川銀河の10倍以上の質量と約300倍の星形成率という、モンスター銀河の中でもとくに巨大で星形成の激しい銀河であることもわかっている。

J0107a
モンスター銀河J0107a。(左)JWSTによる近傍合体銀河「VV114」の近赤外線観測像。J0107aはその背景に偶然見つかった。(右)JWSTとアルマ望遠鏡の観測データから作られた合成像(提供:(左)NASA、(右)NASA, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Huang et al.、以下同)

観測の結果、J0107aの形状だけでなく付随するガスの分布と運動も、現在の棒渦巻銀河とよく似ていることがわかった。また、現在の銀河の棒状構造では全質量に占めるガスの割合が10%以下であるのに対し、J0107aでは50%程度ととても高いことも明らかになった。この棒状構造は銀河円盤をかき回し、銀河の内側で吹き荒れる秒速数百kmのガス流を作り出していて、そのガスの一部が銀河中心に落ちることで猛烈な星形成が引き起こされていることも示された。

J0107aのガス分布
(左)JWSTによるJ0107aの近赤外線画像。(右)アルマ望遠鏡による銀河内のガス分布。回転する棒状構造の先端部に存在する大量のガスが中心に向かって落ち込んでいる

アルマ望遠鏡による観測で得られた詳細なガスの分布と運動の情報は、宇宙初期における銀河の棒状構造の形成過程を見ていると考えられ、モンスター銀河の起源だけでなく、より普遍的な棒状構造の形成進化を理解するうえで重要な手がかりとなる。

「巨大銀河の成長に必要な多量のガスは、銀河同士の合体や、宇宙網(銀河と銀河をつなぐ水素ガスの大規模構造)から流れ込んで供給されます。J0107aの周りには大きなガス円盤が検出されていますが、その運動が銀河本体とほぼ沿っていることから、宇宙網から渦を巻きながら降着してきた大量のガスでできたものと推測します。このように、宇宙スケールのガスの流れの中で円盤銀河が誕生して、銀河内部の進化で棒状構造が出現し、銀河スケールの激しい風と爆発的星形成を引き起こすという、モンスター銀河に対する新しい描像が考えられます。今後の観測研究でこの説を確かめたいです」(黄さん)。