大小マゼラン雲から伸びる「マゼラニック・ストリーム」の起源

【2010年10月6日 CfA

大小マゼラン雲から長く伸びる水素ガス雲「マゼラニック・ストリーム」は、長い間わたしたちの天の川銀河の影響で形成されたと考えられてきたが、最新のコンピュータ・シミュレーションによって、大マゼラン雲と小マゼラン雲が接近したために形成された可能性が示された。


(大小マゼラン雲の接近シミュレーションで示されたガスの分布)

大マゼラン雲(LMC)と小マゼラン雲(SMC)の接近シミュレーションで示されたガスの分布。クリックで拡大(提供:Plot by G. Besla, Milky Way background image by Axel Mellinger (used with permission))

「マゼラニック・ストリーム(マゼラン雲流)」とは、大小マゼラン雲から天球上を100度以上にもわたって長く伸びる水素の雲である。これまでその起源は、天の川銀河の重力によって大小マゼラン雲からガスが引き寄せられているためだと考えられてきた。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのGurtina Besla氏らによるコンピュータ・シミュレーションによって、マゼラニック・ストリームが天の川銀河の影響によるものではなく、銀河同士の接近・通過によって形成されたものであることが示された。

典型的なコンピュータ・モデルでは、マゼラニック・ストリームの形成を説明するために、天の川銀河のまわりを回る大小マゼラン雲の公転周期を20億年以下程度とする必要がある。しかし、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使った計測結果などを合わせたBesla氏らの研究によって、その必要がなくなった。Besla氏らによると、宇宙的な時間のスケールで見ると大小マゼラン雲は天の川銀河周辺に到着したばかりの新参ものであり、過去にわたって長い間天の川銀河のまわりを回っていたわけではないことが示されたのである。

しかし、天の川銀河のまわりを公転せずに、どのようにしてマゼラニック・ストリームのようなガスの流れができたのだろうか?

研究チームでは、銀河同士による相互作用でよく見られる構造と、マゼラニック・ストリームおよび大マゼラン雲と小マゼラン雲とをつなぐ橋のような水素ガスの構造が似ていることに着目し、そのような構造は、大小マゼラン雲が天の川銀河の重力にとらえられる以前に形成されたのではないかと考えた。そこで、マゼラニック・ストリームが天の川銀河への接近に関係なく形成されるかどうかコンピュータ・シミュレーションを行った。

その結果についてBesla氏は「大マゼラン雲と小マゼラン雲の衝突は起きませんでしたが、両者がかなり接近したために、小マゼラン雲から大量の水素ガスが引きずり出されました。潮汐力によって、両者をつなぐガスの流れと橋のような構造が形成されたのです」と述べ、さらに「わたしたちのコンピュータ・モデルは、銀河間に働く潮汐力の作用を示しており、天の川銀河のような巨大な銀河から継続的な影響を受けることがなくても、銀河の形が変わるというパワフルなメカニズムを明らかにしたと考えています」と話している。

なお、マゼラニック・ストリームの尾にあたる部分の視線速度と空間的な位置観測から、天の川銀河の重力はマゼラニック・ストリームのガスを引き出してはいないが、一方で大小マゼラン雲の軌道に影響を及ぼしており、長く伸びたガスの尾の形に変化を及ぼしていることがわかっている。